vingt-huit





脱ぎ捨てたドレスの裾を摘んで手繰り寄せ、何層にも重なるスカートを花弁の様に捲る。

セロファンを通して見る世界と同じ様に、青いオーガンジーの色で世界は染って見える。

薄いオーガンジーで花嫁のヴェールみたいに顔を隠しては、エリックの視線から逃げる。

エリックの情熱的で真っ直ぐな瞳に直接絡め取られるよりは、

例え丸見えでも透き通った布というフィルターを一枚でも間に挟むことによって、

恥ずかしさが少しでも緩和される様な気がした。

ほんのりと頬が染まっているのが自分でも良く解る。

今まで味わった事の無い至上の幸福感が全身を駆け巡り、笑みが滲み出して止まらないのだ。

絹のシーツの上にふたつの生身の身体が横たわり、小さく柔らかい自分の身体が、

美しく逞しい男の方に心成しか吸い付くように寄って行く。

男―…エリックは左手で頭を支えながら、覗き込むように私を見つめる。

何処か大儀そうだけれど、しかしとても満ち足りた様子で微笑むエリックが、

顔に当てている薄布のせいかキラキラと光って見えた。

「…顔だけ隠してもここは丸見えだ」

彼はそう言うと、申し訳程度に私の身体に掛かっていた絹の掛布を剥がし、

すっかり汗の引いた肌を露出させ、腹にそっと顔を埋めて口付けた。

「や、くすぐったい」

くすくすと声を上げながら身を捩ると、エリックはそのまま私の上に覆い被さり、

穏やかに微笑んで、オーガンジー越しにうっとりと唇を塞いだ。

愛しい人の唇が離れると同時にゆっくりと瞳を開けた。

目がかち合う。

平静の青い薄布を持ってしても、やはりエリックの燃えるような赤い熱は中和出来ないらしい。

それを悟るより早く、私の身体がまた熱くなったのを感じた。

「なぜ顔を隠す?」

「…恥ずかしいんだもの」

「だが丸見えだよ」

今度はエリックが笑った。

私は躊躇いがちに顔を覆う布を取り去ると、甘える様に再び彼がキスをくれるのを待った。

身体を互いに絡め合いながら、至極尊い本能の教えに倣うように口付けを交わす。

痛みを伴う行為に耽った為、私の身体は所々気怠く横たわってはいたが、

それを労わるようにして私を優しく抱き留めるエリックが、涙が出る程愛おしかった。

それから私が実際に身体を動かせるようになるのには約一日を要した。

私もシャワーを浴びたかったが、このように怠惰な身体では少し難しかった。

そんな残念そうな様子を見たエリックが、湿らせた綿布で私の汗を拭ってくれた。

私がエリックのベッドを占領していても彼は一向に嫌な顔など浮かべなかったし、

横でテキパキと身支度を済ましてゆく彼の姿を眺めているのも新鮮だった。

エリックがクロワッサンと紅茶と赤い薔薇を運んでくれた時、

昨夜は驚くほど姿を見せなかったアイシャが、

ひょっこり現れたかと思えば、ぴょんとベッドの上に飛び乗った。

甘えるようにぶんぶんと喉を鳴らしながら、少し冷えた私の腕の中に滑り込んできた。

二人に気を使って身を潜めていたのだろうか…そう思うといじらしくて堪らなかった。

独り善がりで勝手な妄想ではあったけれど、

アイシャならそんな気の利いた配慮も出来てしまいそうな気がしたし、

エリックと通じても、やきもちひとつ焼かずに私に懐く高貴な友人が可愛くて仕方が無かった。

指を動かし喉を擽ってやると、更に嬉しそうにぶんぶん鳴いた。

「私は少し出掛けてくるよ。は暖かくして休んでいなさい…―風邪を引いてはいけないよ」

微笑んで「いってらっしゃい」と呟く口に、そっとひとつキスが落とされた。

私は目を閉じ、甘んじてそれを堪能する。

少し乱れた私の髪を優しく撫でると、エリックは小さく微笑みしばしこの安息の城を出て行った。

数時間前までの情事を思うと、エリックとほんの少しだけ離れる事も耐えられない気がして、

そんな思いを忘れてしまおうと、アイシャを抱き締め、柔らかな毛並みに顔を埋め、

しばしの甘い夢中へと、この身を任せた。











T O P /  N E X T








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まさに乙女心ですね(きゃ)

労わってくれるエリックとか、や、もう、本当どうしていいのか

解らない位魅力的です。

20080525 狐々音