結局あの後、リーマスと私は、気分を持ち直したハリーとロン、

ハーマイオニーの質問攻めにあった。





リーマスと私は恋人同士なのかと聞かれた時、

私達は互いの顔を見合わせて噴き出してしまった。


「そうだったらいいのにって思っただけです」


ハーマイオニーが遠慮がちに、私達を交互に見る。

リーマスが「残念だけど先生にはちゃんと恋人がいらっしゃるよ」と笑うと、

3人の落ち着くはずだった好奇心は、

さらに火が着いてしまったように、熱を上げ目を輝かせた。


「私も知っている人だけどね。14の時には付き合っていたんじゃないかな?」

「――16よ」


乗せられて答えては見たが、笑うリーマスを見て少し後悔した。


「今日話した事は、全て他言無用だという事を忘れないでね」


そう諭すと、リーマスと私は3人を寮の入り口まで送った。




気紛れな階段を下り、並んで廊下を歩きながら、ぽつんと呟いた。


「私達って恋人に見えるのかしら」

「君が出会い頭に抱き付くからだよ」

(…そういえばそんな行動も仕出かした…)

「……―聞いても構わないかな」


それは唐突だけれどリーマスらしい穏やかな切り出し方だった。


「…なあに?」

「…戻って来ようと思ったきっかけはなんだい?」


少し俯き、リーマスの目を見ずに答えた。


「…あなたと一緒。シリウスが逃げたのを知ったから」


何人かの生徒とすれ違う。

そのまま歩き続け、廊下の角を曲がる頃、再び聞かれた。


「もうひとつ教えて欲しいな」

「…どうして5年も姿を晦ましたの?って?」


リーマスは辛そうに笑った。


「私はがその秘密を…誰かに打ち明けられているなら、構わないんだ」

「…もちろん、ダンブルドア先生は全てご存知よ」

「そうじゃなくて」


人影が無いので立ち止まってリーマスを見上げる。

彼が言いたいことは重々承知している。

続く言葉は解っている。

それでもリーマスは敢てそれを口にした。



「ちゃんとセブルスには話したのかい?」



リーマスから目を反らし、力なく首を横に振った。

ある程度予想していたのかリーマスは続けた。




「……―はセブルスのために5年も旅を続けていたんだね?」




一瞬頭から冷水を被った時の様な衝撃が、背筋を駆け抜けた。

私の顔からはみるみるうちに血の気が失せ、今自分が蒼白だろうと構いもせず、

泣き出しそうな顔でリーマスを見据えた。


「お願い、絶対に…セブルスには言わないで」


リーマスは痛ましい子供の姿を見るように厳しく目を細め、

私の肩に手を乗せてはっきりと言った。


「もちろん、言わない。

 一体どんな目的で、君がこんなにもはちきれそうな旅を

 選択したのかは気になるけどね。

 だけどセブルスが知らない事を、私が先に知るつもりは無いよ」

「…ありがとう…」


誠実なリーマスの言葉に胸を撫で下ろし、力なくお礼を言った。


「…ねえリーマス…、」

「なんだい?」

「さっきボガートが見せた…あの黒い布の塊は―……」


懺悔とも取れそうな辛そうな口調で、自嘲気味に吐き出した。



「―私はいくら酷い目に遭っても、

 ヴォルデモートもディメンターも恐れない。

 私が最も怖れるのは――――――、セブルスの死―…。

 彼が消えてしまう事が…私にとっての最悪の恐怖だわ」





死喰い人のそれのように、真っ黒なマントに包まれて、

青白い死顔―、口から一筋の赤い雫を滴らせ、

重力に任せるままに大地に打ちつけられ転がる―…最愛の人。





ありありと想像し、再び身体中に寒気が走る。

リーマスはもう何も訊かず、悲しげに微笑むと、支えてくれていた肩から手を離した。

ポケットから小さなチョコレートの粒を取り出すと、私の掌に持たせた。


「食べて。元気が出る」


幸せが死に掛けたときはチョコレートが一番。

ふっと笑ってチョコレートを頬張った。


「…リーマス。例の彼女の事、ちゃんと大切にしてあげなさいよね」


そう冷やかせばリーマスの笑顔は読み取れない物に変わる。


「ん?一体誰の事だい?さて、じゃあ私は行くよ。後で大広間で」


とぼけた笑いで誤魔化すリーマスは、ぼろぼろのローブを翻し自室へと戻っていった。

(…誤魔化しきれてないわねえ…)

おせっかいに口端で笑うと、気分は幾分か良くなっていた。

チョコレートの巧妙か、少し気分が落ち着いていた。

そして私も、あの愛する不機嫌顔の待つ、地下牢へ向かって歩き出した。























#08
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賢い狼にはさんがセブルスに首っ丈な事くらい、

とうの昔っから、お見通しなのです。

200806020 狐々音