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まるで城壁と同じ、体温を失った石のように立ち尽くし、 青白い顔から更に血の気が退いていくのが手に取るように解った。 そのくせ腹のそこから湧いた吐き気のような灼熱の礫が、 喉元までわんわんと脈打って、微かに耳鳴りまでした。
職員室へと向かう途中、角を曲がる手前でとルーピンの話し声が聞こた。 眉根を寄せながら、物陰から少し遠めに見える二人の姿を確認する。 声を掛けるでもなくただ通り過ぎようと思った矢先、 寝耳に水とはまさにこの事。
彼女が5年も姿を晦ませたのは―…我輩のため…? 混乱しわなついた手で、縋るように口を抑えた。 (一体なんのために?) 彼女は自分の研究欲と好奇心を満たさんがために、 姿を晦ませたものだと思っていた。 しかしあの怯えようを見る限り―…想像するよりはるかに痛ましい 腫物を抱えているようにも見て取れた。 そしては怖れている。 我輩の死を―、恐れている。 察するにの前でボガートが我輩の死骸を晒したようだった。 (―なんと悪趣味な) 駄目だ、阿呆の様にいつまでも立ち尽くしている訳にもいかない。 二人の会話が終わる前に、取り憑かれたように地下へと逃げ帰った。
(我輩の方からは一切何も聞かぬ、と) (いつ打ち明けるのかはが決める事なのだ) (…我輩は約束した…)
待っていれば、いつか真実が解る保障など、どこにも無かったが、 どんな理由であれようやく国に帰り着き、懐かしい母校に赴任し、 穏やかで新しい生活を送り始めたを、 約束を破ってまで問い詰め、早々に悲しませるのは気が引けた。 (……―抱き締めたい) 椅子に腰掛け額に手をあて、短い溜息を吐いた。 ―コンコン― 顔を上げ、訪問者に眉を顰める。
我輩を見て、胸を締め付ける程美しく笑う。 二人でソファに座ると、彼女は取りとめも無く話し始める。
我輩は眉間に皺を寄せ自らの不快感を表す。
ふわふわのウサギか?ヒキガエルか?」
ご自分で箪笥から出てらしたのに、覚えてらっしゃらないの? ちゃあんとしてたじゃないの…ネビルのおばあさまの格好」
当面の生徒たちの笑いの理由は、婦人の洋服を着た我輩と見て まず間違いないだろう…。
…―も、まね妖怪を倒したのだろう?」
言い知れぬ背徳が喉を詰まらせていくようだった。 不慮に立ち聞きしなければ、この笑顔の裏に潜む痛みに 気付かなかったのだろうと思うと、ぞっとした。 手を伸ばしての柔らかい髪に指を差し入れた。 彼女の頬が少し染まる。 後頭部を掬うように引き寄せると、自分の胸に包み込んだ。
「貴様が悪いのだ」
この折れそうな女の身体を、一層力強く抱き締める。
彼女は相手に強要するような真似は嫌うのだ。 それが例え可愛らしい恋人の頼みだろうが、同じことだった。 (―が少ながらず参っているのは確かだな―)
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嘘で愛する人を護る。
200806020 狐々音
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