みんなは興奮に湧いて、ぺちゃくちゃしながら職員室を出た。



どうも今年は授業の最後に心が弾まない事が多い―…。

(トレローニーには死の宣告をされ、

 ハグリットはマルフォイのせいで、クビにされてしまうかもしれない)

自分とボガードの対決を阻止された事が駄目押しとなって、

今日1日の全ての事柄が、理不尽に思えて仕方が無かった。



ハーマイオニーは一歩前を歩き、ボガートに当たれなかった事を残念がっている。


「…ロン、ハーマイオニー。

 僕ちょっとルーピン先生と先生のところに寄って行きたいんだ」


ロンが「いいぜ」と言った。


「あら!その…私たちも付いて行ってもいいかしら、」


ハーマイオニーが先生の本と容姿を尊敬しているのは重々承知だったし、

ロンもすっかり心を奪われっぱなしだったから「もちろん」と笑った。

向きを変え、再び教室へ入ろうとした。




ルーピン先生に向けられた気さくな声が耳に入った。


「―リーマスはいつも風船ね」

「私のはいいよ。それより…のあれは―、一体なんだい?黒い布の塊?」

「……―、ん。あらハリー、ロン、ハーマイオニー。

 用があるのでしょう?どうぞ?」


部屋に入るタイミングを与えられて、おずおずと部屋に入った。


「やあハリー。ロン。ハーマイオニー」


ルーピンは温かな声で歓迎してくれた。

教室に溢れている大量の椅子を勧められたので、腰掛けて先生に向かい合った。


「今日はとても良い勉強になったわ。

 スネイプ先生の授業にも、ルーピン先生の授業にも参加出来たんだもの」


穏やかな悦びを湛えるような口調で、先生が嬉しそうにした。


「でも先生…先生も見ましたよね、スネイプ先生が、その、あー…」


ロンが続けられずに言葉を濁す。

すかさず僕が後を続ける。


「ネビルをいじめました。トレバーを殺そうとしてた」

「私がネビルを助けるのを邪魔しました」

「それにマルフォイの失敗した雛菊の根を僕に使わせた!」


先生は少しだけ目を丸くしたが、無言でルーピンと顔を見合わせると、

んんんと唸って、困ったように眉を顰めた。


「そうね、うん、そうか…皆にはそういう風に映るわよね。確かに。ええ、そう」


僕たちの気持ちを宥めようと手を掲げながら、意外な事に先生は笑い出した。

訳が解らず口を開けている僕たちを見て、

ルーピンが苦笑しながら「」と声を掛けた。


「ええ、ふ、ごめんなさいね。

 ただあんまりにも、セブルスらしすぎたものだから、つい」


笑いすぎたのか目尻に溜まった雫を指で掃うと、大真面目な顔をして僕たちを見据えた。




「…スネイプ先生が間違った事をしたら、私は必ず咎めます」




お決まりの反論が口を突く。


「でも!先生も見てたはずだ!」

「見ていたわ。ええ…全部見ていた。

 優秀な彼はオレンジ色の薬が死に至らしめる薬では無いと知っていたし、

 それでも万が一に備えて、

 ポケットに緊急の解毒蘇生薬もちゃんと忍ばせていたわ」


相手の興奮を削ぐような、とても落ち着いたはっきりした声だった。


「でも…それは先生として当たり前の事で…あんな酷い言い方をするなんて、

 やっぱりやりすぎです」


ハーマイオニーが尻込みしそうな声で言った。

先生は悲しそうに微笑んだ。


「ええ、そうね。スネイプ先生は酷い言い方をなさるわね。

 …でも私には…ネビルに植えつけられた苦手を克服させてやろう、

 という意味に聞こえたわ。

 彼はね、理不尽の辛さをよく知っているわ。

 そしてその理不尽さを恨む気持ちが、理不尽を克服した時の反動の強さも」


ルーピンがぴくりと反応した。



「スネイプ先生は、ネビルが自分のミスで、

 大事なトレバー失うかもしれないという恐怖をちらつかせる事で、

 ネビルが今後注意力の欠如によって、

 しなくてもいい間違いをするのを防ぎたかったの。

 自分が恨まれてネビルが克服できるなら、彼は全く構わないのよ。

 生徒に好かれたいなら他の先生と同じ様に

 点数と猫なで声を出せば良いだけなのに、

 それをしないのは―……。

 …――セブルスの昔からの誤解を招く悪い所ね」



ルーピンは先生から目を反らし、ぼんやりと遠く、窓の外へと視線を移した。



「ハーマイオニーに手出しを禁じたのも、

 ネビルが一人で始めて一人で作りきらなければ全く意味を成さないから。

 それにもし、万が一にでも、ハーマイオニーが出した指示が間違っていて…

 あるいはそれをネビルが勘違いして…、

 それこそ本当に取り返しのつかない結果が、

 トレバーとネビルに降りかかってしまったら?

 二人とも傷付いて立ち直れないわ。貴重な友情も危うくなってしまう。

 …――生徒同士がそんな責任を負うような真似は、教師はさせたくないものよ。

 スネイプ先生は貴方達に背中を向けた時、私に

 "グレンジャーが指示を出しているか?"と聞いたのよ。

 私はスネイプ先生の肩越しにネビルの手元を見て、

 あの子が何をどれ位入れたのかを、スネイプ先生にお教えしたわ。

 大丈夫、危険な薬は回避出来たわ―、ってね」



僕たちはもう何にも言えなかった。


たとえそれが真実でも、認めたくない気持ちが強い事には変わりは無かった。

しかし反論するには今自分達が、

あまりにも恥かしい事をしてでかしているのではないかという気もした。


「でもね…あんな言い方は、やっぱり頂けないわよね。

 ちゃんと伝わらないし…それに傷付くわ。ごめんなさいね…ハーマイオニー」


先生がそれはそれは優しくハーマイオニーの頭を撫ぜた。


「それとも…もう慣れっこ?」


3人の顔を覗き込むと、先生は悪戯っぽく笑った。

僕たちはそれで気分を少し取り戻し、曖昧に笑い返した。

ルーピンが苦笑いしながら溜息を吐いた。


「―セブルスの周りがみんなのような人間なら、

 セブルスもここまで誤解を受けずに済むのにね」


と呼ばれた先生が優しく微笑んだ。


「リーマスもでしょう?

 あなたは努力して、素晴らしい理解者を何人も得ることが出来たわ。

 …―セブルスは特殊ね。冷静に見て貰えれば良いはずなんだけれど…。

 どうも私にしか解ってもらえないらしいから。

 はっきり言ってとても損ね」

「ああ。君からの理解を得られるだなんて。ものすごい得だ」


二人は声を上げて笑った。


「あの…」


ここで聞き逃してしまう程怖気づいてもいられないので、

率直な言葉を投げかけてみた。


「ルーピン先生とスネイプ先生と先生は―、」


全てを言う前に、質問の意を理解してルーピンが引き受ける。



「ああ、私たちは同級生だ」



疑問がすっきりと解決され、それでか、と納得した。


「ああ!…ん?…………え…?ッえええ!?」


驚いた。

だって先生の容姿があまりにもうら若く、

10代の可憐な少女と同じ様に瑞々しい…そんな事も魔法では可能なのだろうか?


「ハリー、今考えていた事は頼むから口には出さないでくれよ?」


ルーピンが苦笑した。


「いえ、僕、その…」


ハーマイオニーが呟いた。


「…ルーピン先生も先生も…本当に心優しい方なのに…

 どうしてスネイプ先生はあんな……いじわるを……仰るのかしら」

「昔からセブルスは恨まれることが仕事なのよ」


先生が溜息交じりに笑った。


「どういう意味ですか?」

「そうね…つまり…」


少し天井を見つめて短く唸ると、迷い無く言った。



「"スネイプ"は"スネイプ"で在り続けなくてはならないのね」























#07
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口が悪くて大人気ないセブルス。

まるでセブルス解読機のようなさん。

200806019 狐々音