『仮死の薬』はまずはベースを作って1週間放置しておく所までで終わった。

案外あっけない始まりだったが最初に宣告されていた通り、

新しい薬『縮み薬』を作る授業へと軌道を戻していった。





前の時間…ハグリットの授業。

マルフォイはバックビークに不躾な態度を取ったので、

バックビークを怒らせてしまった―…腕に傷を負ったのだ。

腕が取れると喚き散らしたマルフォイは、怪我の手当てが終わらないのか、

まだ保健室から戻ってきていない。

当然、大事な魔法薬学の授業を逃したことになる。

そのマルフォイがもし今マダム・ポンフリーの所から帰ってきて、

先生の手を取ってキスでもすれば、

グリフィンドールからここぞとばかりに辛口な冷かしが起こるのに、と

自分でもあまり頂けない考えが、なぜかふいに過ぎって馬鹿らしかった。



しかしそれこそが悪い予兆だった。



包帯を巻いた右腕を吊ったマルフォイが、

これ見よがしに重症を装って、英雄気取りで授業に途中参加した。

スネイプはそんなマルフォイを咎めるでもなくいつも通りの贔屓で歓迎したが、

先生は可も不可も、下手な話、興味すら抱かないようで、

マルフォイには一瞥もくれず、生徒の間を縫う様に歩いて、作業を見て回っていた。

腕が使えないという嘘を吐くマルフォイの代わりに、

僕とロンが手伝ってやるようにと、スネイプは屈辱的な注文をねちねちと吐けた。





それからすぐに事件は起こった。





スネイプの授業ではいつだって、普段の何倍も縮み上がっているネビルの、

成功とは無縁のオレンジ色をした薬が、また血祭りに上げられた。

授業の最後に、ネビルのヒキガエルに、このオレンジ色の薬を飲ませてみると言うのだ。

慌てたハーマイオニーはスネイプに「ネビルを手伝わせて下さい」と頼んだが、

「君にでしゃばるように頼んだ覚えはない」と冷たく言い放った。

今にも泣き出さんばかりに怯えきったネビルを見かねて、

ハーマイオニーがスネイプに気付かれないように注意しながら、

ネビルに指示を与えている。

気付かれないか肝を冷やしながら、

僕もハーマイオニーもちらちらとスネイプの姿を目で追った。

しかし幸運な事に、スネイプはこちらに背を向け、

返却される薬剤の管理記録表にチェックを入れていた先生と

二、三言葉を交わしていた。




そして間もなく授業が終わろうとした時、震えているネビルの横で、

暗い目をギラギラとさせたスネイプが、皆の注意を集めた。

怯えきったネビルの肩を、先生がさりげなく支えていた。


「さ、ネビル。自分のお薬に責任を持たなくては駄目。

 顔を上げてちゃんとトレバーを見てあげて」


ネビルだけに聞こえる小さな囁きだった。

僕はネビルの横でかろうじてその言葉を拾った。

(―こんなに怖ろしい仕打ちを見せたいだなんて)

続く言葉が見つからなかった。

しかし先生が口にする言葉は、スネイプのそれとは真逆で、

一字一句が幸せへの誘いのように感じ、まるで今から見る辱めでさえ、

怖ろしい事など起こらないと言われているような気がしてきた。


「ロングボトムのヒキガエルがどうなるか、よく見たまえ。

 なんとか『縮み薬』が出来上がっていれば―我輩は間違いなくこっちの方だと思うが―

 ヒキガエルは毒にやられるはずだ」


しかし薬を飲まされたトレバーは、スネイプの掌で見事なおたまじゃくしに姿を変えた。

立ち尽くすスネイプの意を汲んだのか…先生は、さりげなく小瓶を取り出し、

土気色の手の上でクネクネしているトレバーに、二、三滴垂らして元の姿に戻した。


「…グリフィンドール、五点減点。

 手伝うなと言ったはずだ、ミス・グレンジャー」


こうして今年最初の魔法薬学の授業は終了した。











次の時間「闇の魔術に対する防衛術」の授業のため教室を移動する事になった。

ルーピン先生の後へ続いて用意された部屋…職員室へと移動すると、

ちくはぐな古い椅子がたくさん置かれたがらんとした部屋に、

スネイプと先生が向かい合うようにして座っていた。

しかし改めて見て、この対照的な雰囲気を持つ二人が並ぶ様に、

言い表す事の出来ない不思議な感覚を覚える。

口元に意地悪なせせら笑いを浮かべ、スネイプが生徒の方を見渡す。

スネイプは立ち上がり、黒いマントを翻して部屋を出て行こうとしたが、

帰りしなに捨て台詞を吐いた。


「ルーピン、たぶん誰も君に忠告していないと思うが、

 このクラスにはネビル・ロングボトムがいる。

 この子には難しい課題を与えないようご忠告申し上げておこう」


ルーピン先生は眉根をキュッと上げると、すかさず返した。


「術の最初の段階で、ネビルに僕のアシスタントを務めて貰いたいと思ってましてね。

 それに、ネビルはきっと、とてもうまくやってくれると思いますよ」


バタンとドアを閉めて、スネイプは職員室を出て行った。

先生がそれを目の端で確認すると、呆れたように少し笑って首を振った。


「ルーピン先生、私はここでご一緒しても良いかしら」


首を傾げる黄金色の天使は、困った顔のままルーピン先生を見上げて聞いた。


「ええ、もちろん。

 先生のように優秀な先生と授業が出来る生徒は、

 とても幸運ですからね」


ルーピン先生は快く承諾した。




さてその後は最高に愉快な事が起こった。

箪笥の中に潜むボガートに、ネビルが完璧かそれ以上の魔法をお見舞いしたのだ。

ボガートはネビルが恐れているスネイプへと姿変えたが、

ネビルが呪文を唱えると、たちまち、ハゲタカのついた帽子を被り、

緑のドレスを着て赤いハンドバッグを持った姿のスネイプへと変えられてしまった。

これにはどっと笑い声が上がった。

胸の中がすっと晴れて、とても素晴らしい光景を見た気がする。

先生も口元に手を当てて、くすくすと笑っていた。

それから代わる代わるに呪文を浴びせて、ボガートの変身を混乱させたが、

僕の前にボガートが現れそうになると―…ルーピン先生が意図的に前に出た。

ルーピンは目の前に浮かぶ銀白色の球体に向かって、

面倒くさそうに「リディクラス!」と唱える。

球体は空気が噴出す風船に代わり、先生の前に落ちた。

いつの間に取り出したのか、先生の手には白い杖が握られていて、

混乱しているボガートは、最後の抵抗と言わんばかりに、黒く膨れ上がった。

(あれは…なんだろう?)

そしてその黒い布に包まれた塊は、ゴトリと床に打ち付けられる寸前で、

先生の呪文に平伏した。


「リディクラス!さあネビル!」


閃光が奔ると、黒いブリキのネジ巻き式の犬がワンワンと跳ね回った。



(今のは人……?そんな訳、ないか…)



最終的にネビルの呪文がボガートを破壊した。

























#06
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この回のお話、特にネビルの実験は

完全に原作を参考に書きました。

200806019 狐々音