ディメンターとの遭遇―。

最悪の気分だった。

しかももっと最悪な事は…

ディメンターを見て気を失ったのは僕だけだったという事だ。





マクゴガナル先生の元から、ハーマイオニーと二人で大広間に戻った時には、

もう組み分けの儀式は終わっていた。

それなのに前卓の方がやけに騒がしかった。


「どうしたの?」


自分で確認するのが面倒だったせいもあったし、

今はそんな気分では無いというのが正直なところでもあった。

察したようにハーマイオニーが説明する。


「新しい先生だと思うんだけど―すごく綺麗な女性なの。

 どうしよう、私、あんなに素敵な人、見たことが無いわ」


ふとロンを見ると心此処に在らず、もう前方へ釘付け状態で、

自分もそれに倣うように何の気なしに前の教員のテーブルを見た。

頭に雷が落ちたみたいな衝撃が走った。

その女性は白く輝いて今にも消えてしまいそうな―…

透き通る程繊細に輝く、今まで見た事も無い程の美人だと思った。

柔らかい髪と同じ色のローブを羽織って、

黒いまだら羽根の飾りの付いた、美しい帽子を被っていた。

いつだったかペチュニアおばさんが、フランスの貴族を模した

美しい陶磁器人形をお土産に貰って、

それを大切そうに広間に飾っていたのを思い出した。

(すぐに僕が壊すのを恐れて寝室に持っていってたけれど)


「……あ」


ずっと見ていると―というか目が離せずに―どうやら一瞬、目が合ったようだ。

美しい人は僕に向かって、ふっと微笑み掛けたような気がした。

すると彼女を挟むように座っているルーピンと…スネイプに、

嬉しそうに何かを耳打ちしはじめた。

ルーピンは僕をちらっと見ると、微笑んで目配せをしたが、

スネイプにはこれ以上無いという程、憎々しげに睨まれた。

ダンブルドア校長が前へ出る。


「いよいよホグワーツの新学期が始まる!

 まず皆にお知らせがある。宴のご馳走でぼうっとなる前に話しておこうかのう。

 初めにR.J.ルーピン先生をご紹介しよう。

 空席だった『闇の魔術に対する防衛術』の担当をして下さる。

 ルーピン先生じゃ!」


遠目にもよれよれのルーピンが席を立って、生徒の方へお辞儀をした。

皆が拍手をして歓迎した。

(だからチョコレートをくれたのか)


「魔法生物飼育学の後任には、嬉しいことに皆も良く知っとる人が当たってくれる。

 他ならぬ―ルビウス・ハグリットじゃ!」


嬉しい知らせに、少なくとも僕やロン、ハーマイオニーは

特に大きな拍手を打ち鳴らした。


「さて、更に素晴らしいことに、

 今年は特別に、魔法薬学の授業を補佐して下さる先生をお呼びした。

 ―先生じゃ!

 今年の魔法薬学の授業は、ちと難しく複雑な薬を取り扱うと聞いておる。

 皆スネイプ先生と先生のお話をきちんと聞いて、授業に取り組んで貰いたい!」


紹介に応えて立ち上がり、先生がにっこり笑うだけで、

所々から甘ったるい溜息が溢れた。


「嘘!

 って言ったら、とても素晴らしい本を沢山書かれている方だわ…!

 闇の魔術に薬草学に魔法薬学。それにとても斬新な魔法思想、魔法哲学―…」

「おいおいそんなに!?」


ロンが甲高い声を上げた。


「そう!とにかく上げだしたらきりがないのよ」


ハーマイオニーが自分でも戸惑っている様に、

手で顔を仰ぎながら言った。


「こんなんじゃ、授業にならないかもね」









 * * *









「魔法薬学という崇高な学問を、有意義な物と諸君らに理解して頂こうとは思っておらん。

 しかしながらより上質なレベルを目指すのが諸君らの常とするならば、

 この長期に渡る薬作り程、お誂えな授業は無いと覚えておきたまえ。

 諸君のこの試みの為だけに、優秀な助手をお呼びした。

 ―教授だ」


2度目の紹介だったが、一向に構わないと言わんばかりの喝采が起こった。

(普段のこの授業には絶対にありえないことだ)


「歓迎の拍手をどうもありがとう。とても嬉しいものね。

 優秀な先生であるスネイプ教授に、こうして声を掛けて頂いて光栄に思います。

 在学中に少なくとも1度は、長期に渡る生成を経験する事が、

 皆さんにとって、とても有意義な知識を得る事に繋がると、私たちは考えています。

 せっかく作るのですから、純度の高いものを作れるよう、

 皆さんをサポートさせて下さいね」


先生が微笑むと、浮かれに浮かれきった拍手が地下教室に溢れた。

また生徒にしたのと同じ様に、スネイプの方にも、

その美しい微笑みは投げかけられた。

真っ黒なカラスの化物みたいなスネイプの横に、

繊細で美しい金平糖の精のような先生が並ぶと、

目がチカチカとハレーションを起こしそうな程だった。

うんざりした顔のスネイプが前に一歩出ると、教室はまたいつもの静寂を取り戻した。

スネイプは生徒を睨んだまま、黒板に向かって杖を掲げた。

すると詳細な材料、手順―…更にはっきりと『仮死の薬』と書かれていた。


「製作期間は半年。各授業毎に指示を与える。

 更に平行して他の課題も通常通り与えると心得ておくように」


憂鬱な知らせに教室がざわついた。


「黙れ」


教室はたちまち静かになる。



「先刻先生のご忠告にもあったように、非常に貴重な材料を大量に使う事となる。

 純度の高い薬こそ必然の物と、しっかり頭に叩き込んでおきたまえ。

 駄作、失敗など、我輩は一切許さん」


「どうして同じ科目に教師が2人もいるのか、その意味をよく考えるように。

 半年後みなさんにとって有意義な成果を上げるためには、

 積極的に教師を利用する事をおすすめします」




もしスネイプの声と先生の声に、こんなにもあからさまな区別がなければ、

今のどこからどこまでがスネイプの話だったのか、きっと解らなかったと思う。

スネイプの話の続きをすらすらと引き継ぐ先生の事を、

教室中の誰もが少し驚いたように見つめていた。


「『仮死の薬』は読んで字の如く、使用量に比例した時間で仮死状態を作り出します。

 ただし量を過剰に摂りすぎると、昏睡の後に死んでしまうので注意が必要です。

 人体とその他の生き物の服用では、多少の誤差が出ます。

 仮死状態ですが―…出来れば"果てしなく死に近い夢遊睡眠"と捕えて欲しいですね。

 ふたつに大きな差があるかと聞かれると…少し困ってしまいますが、

 はっきり言える事は"果てしなく死に近い夢遊睡眠"の状態では、

 服用した人間は必ず夢を見ます。

 しかし身体の状態としては、所謂仮死状態となんら変わりはないので、

 区別する必要は無いとして『仮死の薬』と名前が付けられています。

 ―と、少し混乱させてしまいましたが…。

 今のは口頭での全体的な説明だと思ってくだされば十分ですよ。

 ちゃんと黒板には、スネイプ先生が簡潔に書いて下さってますから。

 皆さんはぜひ、そちらをノートに取って覚えて下さいね」


この有意義な授業を模したような説明に、皆は深く感動していた。

だがこういった事柄に対して、必ず報復を企むであろうスネイプの顔を盗み見るが、

予想に反して睨みも否定もしていなかった。

(……スネイプもきっと美人には弱いのだ…)


「ああ、それから『仮死の薬』と『生ける屍の水薬』の差ですが―…」


ハーマイオニーが完璧な角度で手を真っ直ぐ上げた。

先生は微笑んだけどスネイプは睨みつけた)


「ええとミス・グレンジャー?ハーマイオニーで構わないかしら?」


ハーマイオニーは目の中にキラキラ光る星をいくつも輝かせながら、

もちろんです先生、と言った。


「『仮死の薬』は相手に眠っているというよりも死んでいる印象を与えますが、

 『生ける屍の水薬』は眠っている事が相手にばれてしまいます」

「ありがとうハーマイオニー。

 とても素晴らしい説明に感謝を込めて。グリフィンドールに5点」




スネイプが先生を睨んだのは、後にも先にもこの時だけだった。























#05
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お二人の連携プレーには生徒も唖然です。

その無自覚・無意識さはちょっとした夫婦漫才並です。

200806019 狐々音