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そもそもセブルスと知り合ったのは、 言わずもがなホグワーツ魔法魔術学校だ。 正確にはホグワーツの新入生として初めて乗った ホグワーツ特急のコンパートメントで―、だったが。
あっちを開きこっちを開き、手当たりしだいに本を読み始めた。 だから最初は気が付かなかった。 軽く扉を叩かれて、視界を遮る大きな本から顔を上げると、 顔に貼り付きそうなねっとりとした黒髪の少年が、 少し険しい顔をして扉の外に立っていた。
「どうぞよろしくね、セブルス」
セブルスは理解したらしく握手に応じた。
「色々。薬学とか、論理とか…全部パパの本棚から貸して貰ったの」 「それ…、」
黒革の本だと言った。 律しては居たが物欲しそうに見えたものだから、 セブルスの方に本を差し出してみた。
嬉しそうにほんの微か目を細めた。
「…どうして?」 「さあ?ただ"スネイプ"と"スネイク"を引っ掛けただけ」
列車はホグズミード駅へ到着した。 冗談混じりに示唆した通り、組み分けの儀式でセブルスはスリザリンとなった。 私の家系は代々レイブンクロー生だったから、自分も歴代の例に倣い、 当然レイブンクローの寮になるのだろうと 少し誇らしげに帽子の決断を待ったのを覚えている。 しかし―…予想に反して私はスリザリンを言い渡されたのだった。
(…ショックというよりむしろこれって―…)
それに付け、いくら自分が家系の型を破ったからと言っても レイブンクロー気質の家に育ったのだ。 スリザリンのそれのように、寮の属性などという概念に縛られる事を 私はあまり好まなかった。
初めて接触した時の第一印象は―…、 とりあえずこれ以上無いという程のシリウスの侮蔑の眼差し。 スリザリンとグリフィンドールいう理由だけで、 怨む理由にはたっぷりと余計なお釣が返ってくる程なのだ。
私は素早くそれを拾い上げると、この羊皮紙―もとい…悪戯の地図!―の持ち主である彼らに 躊躇もせずに声を掛けた。
「…ん?……あ?なんだよスリザリ…―ン、…」
怒りとはちょっと違うようだった。
ジェームズとシリウスの口が見事に喘いでいた。
以来私は、なぜだかシリウスに"お気に入りの君"と呼ばれた。
当然ジェームスやリーマス、ピーターと話す事も多かった。
自他共に認める程スリザリンらしくない私。 三度の飯より魔法薬学と闇の魔術の本を開いている事が幸せだと、 本気で信じているような、不機嫌で達観した少年、セブルス・スネイプ。 これほどまでにそれぞれの立場がはっきりしても尚、 私とセブルスはコンパートメントで出会った時と同じ様に、親しく交流を続けていた。 私にとっては4人組と親しくする事も、 セブルスと特殊な話をするのも、ごく自然で当たり前の事だった。 しかし周囲もセブルスも、それは不自然な事だと口を揃えた。 4人組がセブルスに悪戯を仕掛け始めたのは知っていたし、 見かねて何度か注意したが―…、セブルスはそれをとても嫌がった。 彼らも彼らで、お気に入りの私を引き合いに出してからかうのは気が引けるらしく、 頭の悪くない彼らは当たり前のように、私の居ない時を狙って、 飽きもせず、何かとセブルスに構い続けた。 とは言え、セブルスが軽率で憎たらしい言葉を口にする事も事実だし、 セブルスが私による救済を断固として拒否し続けていた事もあって、 基本的にあの5人の間にどのような抗争が巻き起ころうとも、 私は冷ややかなだんまりを決め込んでいた。 …ただ調子に乗った4人組が、 血の気の失せるような手段を平気で持ち出し始めるようになったので、 私は過去2度、凄まじい憤慨を惜しげもなく露にした事がある。 その怒れる様は、私が今まで甘んじて身を引いていたという事実を、 彼らに改めて思い出させるはめになった。
ただし私は人を人とも思わない仕打ちだけは決して見過ごさないわ。 極めて不愉快よ―…虫唾が走る」
その晩グリフィンドールの4人には――、まあちょっとした事が起こったのだが。 以来リリーはこの晩起こったことを"究極の仕返し"と呼んだ。
いいかげんにしないとまたの"究極の仕返し"を受けてもらうわよ!」
少なからず彼らの暴走を咎める拘束力があるのなら、私はおおいに結構だった。 それでも頑なに、彼らは互いに憎しみ攻撃し合う事を、止めようとはしなかったけれど。 私がセブルスに降りかかる問題に口を出さないかわり、 セブルスも私と敵との交友には―心底嫌悪を剥き出しにはするが―口を出さなかった。 私がこんな振る舞いをしていても、 ―意外な事だが―いつでも我先にと私を奪い合うスリザリン生より、 他寮の生徒たちと仲良くしている方が、 私の性に合っているのを知っていたのだろう。
私たちの間には、確かめ合う必要の無い、無言の絆が絡み合っていた。 たとえ一週間言葉を交わさなくても、1日中べったりと行動を共にしても、 なぜだかその絆だけは決して揺るがないという、根拠の無い自信があった。
牛乳がたっぷり入ったココアを片手に、談話室のソファで本を開いていた。 第2章を読み終える頃、同じ様に朝を持て余した顔をしたセブルスが 談話室の階段を上ってきた。 少し目を見開いたが、私を見ても然して躊躇も示さず隣に腰を下ろし、 倣うようにして無言で本を読み出した。 そして気付けばどちらともなく―キスをしていた。 何も言わず、何も告げず、また再びそれぞれの本に目線を戻すまで、 言い表せない幸福感だけが、胸の奥で甘い痺れをもたらしていた。
―そこで目が覚めた。
どうやら私は懐かしい夢を見ていたらしい。
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"究極の仕返し"の詳細は、後の方で解ります。
200806019 狐々音
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