柊や宿り木を編みこんだ太いリボン。

金色に輝く星まみれのクリスマスツリー。

ゴシック彫刻の様に掘り込まれたキャンドル。

クリスマスの朝が来た!






普段通り自分の部屋で目覚めたのだが―…、

隣ではセブルスがまだ寝息を立てていた。

(……どうしよう…可愛い)

彼は私の部屋に押し掛けるより、押し掛けられる方が圧倒的に多い。

―まあセブルスが意識的にそう仕向けているのだが―

セブルスにとって自分の部屋で目覚める事に意義があるのだ。

起床すればすぐに身支度を済ませられる。

疑問が脳を支配すれば調べる事が出来る。

閃きが頭を擡げれば机に向かう事が出来る。

必要な物が揃っていない部屋など、落ち着かぬだけらしい。

しかし…そんなセブルスが、今朝はこうして、私の部屋で、

小花柄が描かれているスミレ色のシーツに包まり

安らかに眠り続けている。

規則的な呼吸をする彼の姿が、

物珍しくてならない―――じっと見つめてしまう。

というのも今、彼の眉間には皺ひとつ刻まれていなかったからだ。

久しく見ていない、セブルスの穏やかな寝顔だった。

普段は青白くてこそセブルスなのだが、

今朝の顔色は―シーツのせいなのか―普段より幾分明るく思えた。

額にそっと口付けた。

啄ばむように瞼に、頬に、鼻の頭に、唇に。


「………随分甘ったるい起こし方だな」


まだ眠気の混じった掠れ声で、セブルスが薄く微笑む。


「起きちゃった」

「…当たり前だ」


優しく唇を塞がれた。

そのまま私の胸に顔を埋めると、ぎゅうと抱き締められる。


「………頼む…、もう少しだけ…このままだ」


くぐもった吐息が胸元に人の温かさを感じさせた。

私は返事の代わりに、何度も、何度も、

セブルスの頭を撫でた。











 * * *









ほとんどの生徒は学校には残っていなかったが、

クリスマス・ディナーはささやかなメンバーで

盛大に行われるとダンブルドアから招待状を頂いていた。







「貴様はいつまで待たせるつもりだ」

「1分よ」


―誰もお呼びでないのに―もういつもの"スネイプ"が戻ってきたらしい。



その科白には不機嫌と皮肉がたっぷりと飾り付けられている。

部屋の外に立ち、私が仕度を済ませて出て来るのを待っているのだ。

再三見つめた姿見の前で、最後にもう1度ターンしてみる。

わざわざ前の晩に箱から出して用意しておくような、

特別な日のためのヒールに足を滑らせると、

扉の向こう側で待っているであろうセブルスに向かって

悪戯っぽく質問を投げかけた。


「金?紫?どっちだと思う?」

「――――どちらも無いな。黒だ。

 悪いがこれ以上待たすおつもりなら我輩は先に行かせて頂くが?」


セブルスのその返答が、嬉しさで陶酔する程、私の胸をいっぱいにした。


「正解は――――」


ようやく扉を開けて、


「ご名答、黒でした」


とびきりの笑顔で自慢の黒いドレスを見せ付けた。

私が部屋から現れた瞬間、セブルスは目を見開いて固まってしまった。

私も私で彼の姿をまじまじと見つめ、言葉を続けられなかったのだけれど。

セブルスの格好は、傍目には普段と変わらぬ黒装束に見えるが、

良く見ればデザインも素材も全く普段と異なる畏まった礼装をしていた。

妙にスマートで変な色気を感じてしまう。


「…セブルス、あなたそれ反則だわ」


うっとりと頬を染めるような年でも無いけれど、

やはり美しい男性は女性にとって非常に有益な物なのだなと思った。

セブルスは私のそんな発言には、お決まりの溜息に

うんざりとした呆れをこれでもかと含めて返す。


「………貴様という奴は全く…」


しかも今日はこめかみに手まで添えて大奮発だ。


「…そうやって無自覚に男を誘惑するにも程があるな。

 人より素材が優れているのだから着飾ると尚、達が悪い」

「…ねえちょっと待って?

 本当に今まで、私が無自覚で振舞ってたと思うの?」


セブルスは眉根を寄せた。


「…………違うのか?」

「当たり前です。お忘れでしょうけど私もスリザリンなの。

 私に言わせて貰えば、貴方のその色気の方がよっぽど無自覚ね」


セブルスは呆れたように目を回すと、諦めて腕を差し出した。


には敵わん」

「お互い惚れた弱みね」


するりと腕に手を絡ませて、クリスマス色に染まった城の中を歩いていく。

所々で雪の結晶がキラキラと降り注ぎ、

ベルやオルゴールの音色が遠くの方から聴こえてきた。


「どうして私のドレスが黒だって解ったの?」


誰もいない廊下を歩きながら聞いた。


「………黒はの肌の色を一番美しく見せる。それだけだ」


(ええ―それだけ解ってくれるのならば、私は十分幸せだわ)

満ち足りた幸福感のような物が、お腹の辺りでぽっと湧き上がった気がした。


によく似合っている―――…とても綺麗だ」


私が弾かれたように反応を返す前に、セブルスは組んでいた腕を解き、

お互いに寄せ合っていた肩の間に空間を作った。


「…―さあ。大広間ですぞ、先生?」


いつもの様に嫌味を含ませ、口端を歪めて笑った。

私にはセブルスが少し残念そうなのが解った。

彼の手によって示された方向には、既に何人かの先生と生徒が

大広間の中央に置かれたテーブルを囲んで楽しげに話す姿があった。


「…エスコート感謝しますわ――スネイプ先生」


仕掛けられた悪戯に乗る子供のように、挑戦的に笑って返す。

こんな遣り取りがいかに子供染みていて無意味な行為だと解っていても、

私達には誂えた様な大人の振りしか出来ないのだ。

―出来ないのなら出来ないなりに完璧を目指そうじゃない―

この仮面の様なわざとらしさは、どこまでもお互いに承知している。

――ちょっとした、酔狂。

























#16
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女性の部屋で目覚めるスネイプも良いな…と。

200806024 狐々音