昨夜採点し終えた羊皮紙の山も、1日が終わる頃には

全て返却が完了し、部屋はやっと元の状態に戻った。

明日からはクリスマス休暇に入り、生徒達のほとんどが家族の元へ帰る。

そして教師はしばし騒がしい子供の群れから解放されるのだ。

もどうやら家には帰らないらしい。

―カードやらプレゼントは、方々へ熱心に送っていたようだが―

5年もほったらかしておいたお父上に、

6年目まで淋しい思いをさせるつもりなのかと問うと、

どうやら彼はグリーンランドでサンタクロースと休暇を過ごすらしい。

(…全くあの御仁は…。一体何者なのだ)

結果、彼女はダイアゴン横丁の自宅から、お父上の黒い愛猫

―確かマーゴットとか言う名前だ―を預かってきたらしい。

基本的にどこに移動しようとも、の後ろには黒い猫がくっ付いていた。

しかし更に困ったことに―――どうやら我輩にまで懐いているらしい。


「無自覚だったの?」


驚きにティーカップを落としそうになりながらが言った。


「……―そうだったか?」

「昔からマーゴはセブルスがお気に入りじゃないの」


ねえ?とマーゴットに話の矛先を向けると、ニャアと鳴いて、

まるで同意を示したようだった。

我輩はと言えば、狼ルーピンのために

新たに『脱狼薬』を煎じてやっている最中だった。

は紅茶を片手に「闇祓いにおける根底思想論」という本を開いている。

マーゴットは薬問屋の猫らしく、薬煎じの邪魔だけは絶対にしないので

毛の混入などによる些細な失敗は、まず心配がなかった。

現に今も人に撫でて欲しい素振りなど見せる事無く、

籠の中に収まり大人しく寛いでいる。


「まさかクリスマスの宴会にまで参加出来ないとはな。

 ルーピンとはどこまでも運に見放された男よ」

「あらそう?例え宴会に出れなくても、

 リーマスはケーキさえ食べられればそれで満足だと思うわ」


は勝ち誇ったように紅茶を一啜りした。


「狼の口にケーキとは…何とも貧弱、嘆かわしい―…。

 せめてウサギくらいは口に突っ込んでやりたいものだ」


口元に浮かべた薄ら笑いを見て、が「悪趣味」と言った。

大鍋の煮立つ音と、ロクアの種を砕く音だけが部屋に響いている。


―カツカツ、カツ―



「…………ねえセブルス」

「…何だ」


砕いた種を入れれば、鍋から青紫の煙が立ち昇る。


「…………………ごめんね」

「…………もう、良い」


本が閉じる音がした。


「…―違うの。そうじゃないの」

「………ほう?では――何だ?」





「……―印、消す方法―――ね、

 ―私――結局、見つけられなかった…の………、―ごめんなさ」

「っだから良いと言っている!!」





これは癇癪だ。

とてつもなく愚かな。

そして我輩は腹の底から罪悪を感じている。

おそらく今の以上に、だ。

この左腕に刻んだモノは当然の酬いなのだ

それが辛い事だとは、

―死んでも口にした事は無かったはずなのに―。

ああ――それなのに―。

何故いつもいつも―――。










「なぜ貴様には―――――解ってしまうのだ――…、」










手で額を覆った。

微かな光も視線も耐えられないとでも言うように。


「…解るわよ」


の声は少し掠れていた。

冷え切った背中に、温かな温もりが縋りつくのが解った。

そっと撒きついた細く白い手が前で結ばれる。

彼女に閉じ込められる。


「だからもう、絶対に離れない―私はずっとずっと…セブルスのそばに居るの。

 セブルスが"辛い"って吐けるように、

 私に…ちゃんと…最後まで、見届けさせて」


温かいものが、


「っ――我輩は―、」


頬を、


「―――背負わねばならぬ」


伝う。


「それだけが、」


喉が、


「――辛いのだ」


詰まる。
















大鍋に雨垂れが混じってしまった。

また最初から――作り直さねば。























#15
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君に言われるまで

これが"辛い事"だなんて

気付きもしなかった、僕。

200806023 狐々音