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独り地下牢教室で、引っ張り出した薬品や材料を 綺麗に片付け終わる頃になっても、 結局セブルスは教室に戻ってはこなかった。 もう一度部屋の点検と、回収してとろ火に掛けてある 生徒たちの大鍋の様子を確かめてから、 私も教室を後にした。 先程届いた手紙に書かれていた事が忘れられず、 リーマスの元を尋ねる事にした。 とはいえ通常なら生徒が「闇の魔術に対する防衛術」の授業を 受けているはずなのだから、地下牢教室とは違って 日の差し込む教室の一番奥に設えてあるリーマスの部屋を目指すのは、 おそらく無理だろうと解っていた。 しかし…リーマスが授業を出来ない状態だという事は確かなのだ。 そんな事を考えながら歩いていると、 あっという間に問題の「闇の魔術に対する防衛術」の教室の前までやってきた。 分厚い扉の向こうから、ほんの微かだが講義の声が聞こえた。 (この声は―……セブルス。……―授業してる) そういう事かと納得し、なんだか可笑しく思った。 「闇の魔術に対する防衛術」の教員を切望していたセブルスが、 臨時にせよ、こうして欲求を満たす事が叶ったなんて、愉快でならなかった。 しかもその内容は多分きっと、笑えないくらい リーマスへの悪意に満ちているのだろうとも思った。 魔法薬学の授業中に、必死で薬を煎じるはめになったのだ。 セブルスが仕返しの絶好の機会を見す見す逃す筈も無い。 もしセブルスが人狼のなんたるかを仄めかしたと仮定して。 生徒のリーマスへの深い信頼を考慮すれば―… まあまずセブルスの目論見が成就する事は無いと思って大丈夫だろう。 微かな声が止むと、扉の向こうからはガタガタと席を起つ音が聞こえてきた。 (おっと) 扉から身を退くと、予想通り暗い顔をした生徒達が教室から出てきた。 廊下に立っていた私を見て、幾分か顔色を良くした子もいたようだった。 先程の薬学で起こった薬品ショーを思い出したのか、 熱っぽい笑顔で笑いかける生徒もいた。 一人一人に丁寧に笑みを返していると ハリーとハーマイオニーが顔を真っ赤にしながら出てきた。 2人は私を見つけるや否や、逃がしてなるものかと言わんばかりに 駆け寄って―小さな声で―セブルスへの攻撃をぶちまけた。 そしてどうもロンはセブルスの教え方へ批判を浴びせてしまったらしく、 まだ教室で罰則を言い渡されている最中だと言うのだ。 5分後ロンが教室から出てくると、案の定酷く腹を立てていた。 そしてロンの後に続いて黒い塊が教室からぬっと顔を出した。
「大袈裟だ」
そしてハリーとロンとハーマイオニーが先刻の怒りも忘れ、 口をあんぐり開けたまま固まっているのを見つけてしまうと、 セブルスは当然3人を睨み付けた。 どんな理由で減点してやろうか考えているに違いなかった。 これ以上の損失は無益どころか火に油を注ぎかねないと、 彼の口が動き出す前に助け舟を出した。
足早に寮へと戻っていった。
「ルーピンに代講を頼まれたのだ。 急だったが…我輩はそれなりに有意義な授業はしたつもりだ。 ―さてはルーピンの様子を見に来たのであろう? 我輩もまだ奴に伝えねばならぬ事がある」
せり上がった階段を上ると、リーマスの部屋の扉を控えめに叩いた。 ―扉は開かなかった。 しかしセブルスはそれも先刻承知していたらしく、 ローブのポケットから鍵を取り出すと、小さな音を立てて扉の錠を外した。 ―この部屋の鍵は単純な魔法によって鍵が開けられてしまうのを避ける為、 入室には複雑な魔法を掛けた特定の鍵が必要なのだ― ―但し退出すると扉は勝手に鍵を閉じてしまうのだが― 書斎机の更に奥に設えられた寝室への扉を叩くが、 やはりこの扉も開くことは無かったので セブルスがまた鍵を使ってそっと錠を解いた。
タオルケットに包まって眠るリーマスがいた。 窓には薄いカーテンが引かれ、布越しに降り注ぐ柔らかい日差しは リーマスを労わるように照らしていた。 昨夜の満月がリーマスの体力を著しく奪ったのは 火を見るより明らかだった。 セブルスは入り口に置かれた小さなチェストの上に、部屋の鍵を置いた。 私はベッド脇のスツールに腰を下ろして、 衰弱の翳りが滲むリーマスの顔を覗き込んだ。 セブルスが分厚いカーテンを引こうとすると、リーマスの瞼が微かに動き、 小さな声で呻くように呟いた。
ベッドの反対側に立ち、フンと鼻を鳴らしリーマスを見下ろした。
「…ありがとう、楽になったよ」
良くご存知だろう? それを薬で抑え意識を保たせているのだ。 自傷行為の抑制と正常な意識を保つ代償に、 身体に負担が掛かるのは当然の結果だ。 ―しかしながらまさかここまで弱ってしまうものとはな、ルーピン? 授業中だった事は非常に悔やまれるが…、 真っ先に我輩を頼ったのは、賢明だったな」 「…だから『脱狼薬』でなく即効性の『回復薬』を作ったのね?」
「…―小言は明日にしてやろう。 残りを飲んでさっさと寝るんだな。 我輩が明日分の『回復薬』を持ってここを訪れる頃には、 随分と体力も戻っているはずだ」
喉が上下するのを見届け、更にゴブレットが空かどうかを しっかりと確かめたセブルスは、満足気にほくそ笑んだ。
に手でも握ってもらうかね?」
「心配してるのよ」
うんざりと舌打ちするセブルスに軽く頭を小突かれた。 相変わらず顔色は悪かったが、それでもリーマスがくすくすと笑ったので、 私は少し胸を撫で下ろした。 リーマスを横にさせると、すぐに呼吸は規則的になった。 こうやって憤りと孤独を友として、 果たして幸せな眠りなど得られるものなのだろうか―…。 すっかり白髪交じりになった鳶色の髪をそっと撫でてやった。
私も彼の後に続いて静かに部屋を出た。
リーマスの体調に睨みをきかせたのは言うまでも無いけれど― / 表紙へ / #13 |
リーマスはさんと一緒になって、
ちょっとだけセブルスをからかうのが好き。
200806020 狐々音
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