地球の中心ニューヨーク――。

経済と文化をめまぐるしく回し続けるこの大都市は、

世界で一番豊かな人間と、世界で一番貧しい人間とが共存している。

すなわちそれは犯罪が絶え間なく錬成されているということだ。

ニューヨーク市警察の要請を受けたBAUは、

大都市の混乱を鎮めるため今回の事件を引き受けることに決めた。

出勤するなりホッチナーの声がオフィスに響く。


「BAUチームはニューヨークへ。

 10分後に出発する。

 時間がないからブリーフィングは機内で行う――以上だ」


足早にオフィスへ戻るホッチナーを追いかけるように、

が駆け寄って声をかけた。


「アーロン――もう…大丈夫なのよね?」


――少し前の事。ニューヨークで起こった忌まわしい事件。

テロリストの仕掛けた罠に巻き込まれ、ホッチナーは大切な友人を失った。

彼自身も鼓膜を負傷し――精神的なダメージは相当のものだった。

ホッチナーが決して弱い人間だとは思わない。

だからこそは彼の心身の状態がとても気掛かりだった。


「俺は問題ない」


彼は努めて落ち着いた声でそう述べた。


はどうだ」

「故郷だもの」

「――先に言っておく。今回の事件は連続レイプ殺人だ」

「問題ないわ」


ホッチナーはやや考える素振りを見せたが、

腕時計をちらりと見やると「あと6分で出発だ」と言って

出張バッグを取り出した。
















「デレクっていつも何聴いてるの」

「俺のプレイリストに興味があるのかい?不思議ちゃん」

「――ジェイ・Z」


はそれだけ言い残すと絶句するモーガンを残して

ケータリングスペースにコーヒーを取りに行った。


「……おいエミリー、ヘッドホン音盛れしてたか?」


プレンティスは首を振る。


「ブリーフィングを始めるぞ」


ホッチナーの一声で、快適な機内は一瞬にして会議室へと変貌を遂げる。

液晶画面にBAUに残ったガルシアを映し出し、全員が揃うと、

JJとホッチナーが大まかな説明を始めた。


「今回の事件の被害者は8人。

 いずれも20代〜30代のニューヨーカーで一人暮らしの女性。

 犯行時間帯は深夜11時から3時の間で、

 首を絞められて殺されています。

 ただし被害者は全員、殺される前にレイプされてる。

 遺体の発見場所は人気のない裏路地や工事現場ばかり」

「犯行は1晩に1件のペースで起きているが、

 今のところ職種も容姿のタイプも

 全て異なる女性が狙われている」

「それにこれだけじゃないの。

 実は最初の7人の事件の後、犯行は一週間止まっている。

 そして日曜日。犯行は再び始まった」


プレンティスは呆れたように目を回した。


「隔週で人殺しだなんて随分と気の利く犯人ですこと。

 でもなんで一週間空ける必要があったんだろう。

 きっと犯人にとってなにか重要な意味があるはず」


ファイルに挟まれた現場写真を見てモーガンは眉をひそめる。


「死因は絞殺――犯人のDNAは出てるのか?」

「出ていない。おそらくコンドームを使用したんだろう」

「随分余裕のある犯人だな」


が然したることもなさげに答えを提供した。


「ニューヨークだもの。当然よ。

 この街はエイズの温床」


エミリーが溜息を吐きながら続ける。


「つまり少なくともこの犯人はHIVには感染していなくて、

 そのリスクを追う可能性を避ける理性を持っている男性――。

 当然、証拠も残らない」


リードが書類をめくりながら口を開く。


「秩序型だね。

 犯人はある程度の条件を満たした相手の中から

 ランダムで被害者を選んでるのかも。

 もし完全に無作為で、

 単に目についた襲いやすい女性を狙ってるんだとしたら

 辻褄が合わないから。

 被害者の女性が全員一人暮らしっていう偶然は

 確率的にもほぼ有り得ないしね。

 同居人や家族と住んでいるリスクは予め排除してあるはず。

 このペースで犯行を進めるなら、

 かなりの被害者候補のストックがあるんじゃないかな」


ロッシが忌々しげに口を開く。


「犯人は予め犯行場所の下調べをして目星を付けていたはずだ」


が続ける。


「――準備に時間を掛けて、自分でシナリオを作って妄想してる。

 ルールがはっきりしてるし、それに犯行現場はどれも

 適度に人ごみに紛れやすくて、一晩は発見されずに済む場所よ。

 ニューヨークって街をよく理解してる」

「地元の人間だな。少なくとも育ちはニューヨーク。

 変質者に絡まれないようにするための術を知ってるから、

 街や人に紛れ込んで気配を消すもの上手い糞野郎だ」

「ガルシア」

『なんなりとお申し付け下さいホッチ陛下』

「被害者たちの過去の情報を集めてくれ。

 なにか見落としている共通点があるかもしれない」

『もう始めておりまーす』

「それと同じ界隈で起こった過去のレイプ事件、未遂も含めて、

 首を絞められた事件がないか探してくれ。

 殺人に至る前になんらかの兆候があったはずだ」


ホッチのゴーサインでガルシアの魔法はたちまちに火を噴く。


「ロッシとリードは被害者の遺体を見て来てくれ。

 モーガンと俺は被害者のアパートと犯行現場へ。

 JJは市警察についたらマスコミの対応を。

 ニューヨーク在住の女性すべてに

 夜の外出についての注意を呼びかけろ。

 それから市警察のコナー警部がすでに

 被害者の両親や知人を署に集めてくれているそうだ。

 エミリーとは遺族の話を聞いてくれ」


はファイルに挟まれた、灰色の路上に捨てられる

死に絶えた乙女たちの現場写真を見つめた。

全てが冷たい色をしていた。

そんな様子を見てリードが眉を潜める。

は独り言のように呟いた。


「犯人は色のない世界で生きているんだわ。

 ――暗くて、寒い。まるでアウシュビッツの悲劇よ」



































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どうしてもややこしい事になって、

会話が多くなっちゃって…ごめんなさい。

20120717 呱々音