近頃は良い感じだったんだ。

何もかもしっくり来てた。

それに僕らは歳が近いっていうのも結構重要な要素だったりする。

お互いこんな仕事に就いているから、

大量の殺人現場や異常者と一線を引いた

健全な職種の人たちみたいなペースでは

補い切れないくらいのストレス発散が必要だったし、

この関係は理にかなってた。

僕にもだんだんと理解ってきた。

が僕のカーディガンを欲しがるのは、大抵強いストレスを感じたとき。

もしくは内面に蓄積したものを発散したいとき。

彼女は気付いてないかもしれないけど、

カーディガンの袖を口元に充てているのは、不安を感じているから。

多分にはかなりの年齢になるまで指しゃぶりの癖があった。

よく見ると、左右の親指の長さが違う。

右の親指の方がほんの少し短い。

さらに付け足すなら、歯並びが異様に綺麗なのは、

指しゃぶりのせいで不揃いに生えてしまった歯を歯科矯正で治したから。

だから口元に指やタオルを…そしてカーディガンをあてると

より強く安心感を得られるのかもしれない。

は基本的にいつもアイスを食べている。

これも彼女のリフレッシュ方のひとつだ。

ベン&ジェリーズ、レディーボーデン、コールド・ストーン・クリーマリー。

アイスならなんでも好きみたいだけど、お気に入りはハーゲンダッツ。

移動で使うジェット機の冷凍庫にまで入ってる(もちろん自腹だ)

その反動なのかコーヒーはブラックしか飲まないけど、

オフィス用にマイカップは持参。

FBIのあんなダサいマグは死んでも使いたくないって言ってる。

ガルシアほどじゃないけど、服装は明るい色を好んで着てる。

彼女は色彩学の知識があるから色による効果を

自分のライフスタイルにも自然に取り入れていて、

色に関しての口癖は「肌も色を見てるの」だ。

暗い色は肌の老化現象を促進するんだとか。

逆に、彩度の明るい色を着ると、肌は若さを保とうとするそうだ。

モーガンに言わせれば、BAUのオフィスにいる時の彼女は、

[不思議ちゃん]らしい。

もちろんモーガンはに親しみを込めてそう呼んでるんだけど。

オフィスの中でははスイッチを切ってる。

自由、個性的、無防備――言い方はともかく、

自分を作らないでいられるって感じかな。

でももともとはそうじゃなかったってホッチは言ってる。

はあまり人に心を開かない子供で、

いつも独りでお話を考えたり絵を書いたり勉強してたらしい。

FBIアカデミーに入ってギデオンが声を掛けるまで、

ずっと物憂げで淋しそうな目をしていたって聞いた。

ギデオンに時間があるときはチェスをしたり、

アートの話をしたりしてる。

もちろんその話に僕が加わるときもある。

ホッチの懐にすんなり入り込むのが上手いのもの技で、

彼も仕事以外の部分では、のことを妹みたいに扱ってた。

付き合いが長いからそうなって当然だと思うし、

思いがけず再会したっていう状況も手伝ってるんだと思う。

は暇さえあればホッチのオフィスのソファを狙ってるから、

ホッチはものすごく警戒してる(でも結局は入れてあげてる)

大部屋にある彼女のデスクの上には、

個性的な柄のポストイットがたくさんコレクションされていて、

ついでに自分専用のブラックボードまで置いてある。

カラフルなチョークが一式揃ってるっていうのは 言わなくても解ると思うけど。

そこに書かれる文字は毎日違って、

彼女の考えたとっても個性的でユニークな[会]の名前が綴られている。

例えば「大きなリードくんの生まれた日を祝う会」とか、

「ペネロープ嬢とゆく放課後ショッピングデートの会」とか。

このオフィスに入ってきた人間は、

毎日彼女のブラックボードを覗きこんで、

クスクス笑って楽しんでる。

張り詰めた極限の現場と、自分の居場所とを区別するための

彼女なりの対処法なんだと思う。

は現場に出ると、事件に対してとにかく誠実であろうと務める。

集中するのは良いことだと思うけど、

にこりとも笑わない日もざら。ホッチといい勝負だ。

だからといって感情的になって暴走したり、

自分の緊張を相手に伝染すことはない。

多分の認識として、あくまでも彼女自身の中に留まる

ひとつの問題って扱いだから成り立つんだと思う。

だから往路のジェット機の中で、彼女は絶対にアイスは食べない。

事件に区切りが付き、帰路につくとき初めて彼女は安心して、

口いっぱいにアイスを頬張ることが出来るんだ。

それでもそのひとつの問題が解決したとき、

張り詰めていた緊張と重荷の負荷はリバウンドとして

常に僕らに襲いかかる。

もちろんだって例外じゃない。

の場合は[不思議ちゃん]だから、

パッと見ただけではあんまり判別できない。

でもやたらと僕のそばに居たがる――ような気がする。

居たがるだけで、実際に寄ってこないこともあるから、

そう感じたときは僕から声をかける。

「ピザ食べて帰ろう」とか

「本屋に寄りたいから付き合って欲しい」だとか、

切り出し方はそんなのでいい。

弱ってるときのは、2人きりになると途端に小さくなる。

気がつくと僕らはいつも手を繋いでぼんやり歩いてる。

プライベートな状況になると、僕はを甘やかしてあげたくなる。

多分ホッチもそう感じてきたんだと思う。

こういう職に就く人間って、頭が良いだけじゃなくて

警戒心も強いものだけど、

僕との間では警戒心の存在は、あまり意味を持たなかった。

議論の白熱に合わせて好奇心の赴くまま、

一晩中お喋りに熱中する晩もあれば、

大した会話も交わさず、映画を見ながら仲良くアイスを食べて

ソファで寝落ちする晩もある。

僕の家だったり、の家だったり。

もし僕に兄弟がいたとしたらこんな感じなのかもしれない。

だから僕が射撃のテストに落ちた時も、

トバイアスに捕まった時も、

ギデオンがBAUを去った時も、

薬物の問題と戦ってた時も、

父親を疑っていた時も、

僕の心の悲鳴を漏れなく聞きつけて、

根気強く側に寄り添ったり、独りにしてくれたりした。

僕が泣けない時は、僕の代わりに泣いてくれたりもした。

だからあの日、の命の火が消えかかった時、

僕は初めて、彼女が今まで

どれほどの不安に晒されてきたかを思い知った。



































next


















―――――――――――――――――

次からがやっと本編だったり。

前置き長い長い。

20120717 呱々音