グリーナウェイがBAUを去り、

エミリー・プレンティスが加わった時――。

最初に訊いたことは「あの2人は付き合ってるんですか?」だった。


「あれでいいの?」


その質問に対する回答をくれたのはギデオンだった。


「あの2人には――なんていうか潜在的な部分で繋がりがある。

 我々すら容易には踏み入れられない奥深い部分にな。

 でもあいつらはそれに気づいちゃいない。

 まだ小さな子供と同じなんだ。――プレンティス」

「はい」

「見守ってやれ」






その後、ギデオンはある事件をきっかけにBAUを辞めてしまう。

大きなショックが残ったが、彼の穴を埋めるようにチームに加わったのは、

BAU立ち上げにも関わった伝説のプロファイラーだった。

このデヴィッド・ロッシという人物は、

リードとの関係を恋愛関係とは認識せず、

彼らしい配慮で黙認していた。

嘘みたいな話だが、この期に及んでリードとの間にも

付き合っているという認識はなかった。


「現場ではそういう匂いがしないんだ。

 普通はどんなに意識して気を付けたってバレるもんなんだが。

 今のところ、お互いがしっかり割り切れている証拠だろう」

「ええ。天才がふたりというのも困りものです」


何か問題が生じればその都度対処するだけの事。

ホッチナーとロッシの暗黙の了解だった。

とは言え、メンバーの誰にでも等しく懐くの存在は、

ロッシにとっても決して悪いものではなかった。

自分と3人の前妻たちの間にいずれも子供はいないが、

もし娘がいたらこんなものだろうかと

錯覚をおぼえるくらいには可愛いものだと思う。

自らの積に耐えられず、職を退いたギデオンの

真の眼鏡に適ったという名の貴重な原石は、

やはり素晴らしい宝石だったと評価せざるを得ない。

愛妻ヘイリーとの離婚調停で、

心身ともに打ちのめされていたホッチナーを慰めたのも、

であるならば、なんら不思議なことはない。

幼い表情を見せたかと思えば、妙に神妙で、

大人びた表情をしていたりする。

彼女のどこか物憂げな瞳は嘘を見透かす綺麗な目――。

ロッシはそれをこのチームには必要な要素と判断した。































プレンティスがいつものように出勤すると、

は小さな声で朝の挨拶を述べてコーヒーを差し出した。


「あらありがとう」


プレンティスの猫のように丸い瞳がにこりと微笑むと、

は恥ずかしそうに俯いてしまった。

こういう時は大抵、なにか特別な話がある。

コーヒーを啜りながら時計を見る。


「――ブリーフィングまであと15分ある。

 その前にJJのオフィスに集合ね。

 ガルシアは私が連れてく」


簡潔な指示にはほっとしたように頷くと、

足早にJJのオフィスへ向かった。












 * * *












デレク・モーガンがミーティング開始の15分前に会議室を覗くと、

すでにそこにはスペンサー・リードが座っていた。

手持ち無沙汰なのか、

手元のノートによく分からない落書きをしている。


「どうしたリード」

「ああ――おはようモーガン。

 どうしたって、何が?」

「お前が」

「僕が?」


モーガンはそうだよと言いながらもリードから目を離さない。


「ったく――朝からコーヒー飲み過ぎたか?

 お前のママも言ってただろ。

 ――スペンサーは、」

「コーヒーの飲み過ぎよ。だからアナタは痩せてるの、でしょ。

 はいはいよく覚えてますよ人より記憶力が良いんだから」


そんなリードの姿を見て、モーガンは愉快そうに笑った。

彼はまるでちょっと悪ぶった兄のように、

放っておけない弟の目をしっかり覗きこんで、

誠実な声で改めて問いかけた。


「…なんか話があるんじゃないのか?」

「あ〜……ええと――、」


リードは手元の落書きをぐりぐりと塗りつぶすと、

ボールペンを置いて何度かモーガンとノートの間で

目線を彷徨わせた。

そして観念したように口を開く。












 * * *












「好きな人ってどうやったらできるの?」


の問いかけに、一同の時が一瞬止まる。

まず最初に状況を把握しようと試みたのはJJだった。


「……ええと――…?それはどういう…意味かしら?」

「なにをしたら恋人同士になるの?」

「…そうきたか」


プレンティスは聞き取れないくらい小さな声で呟くと、

まずいコーヒーを一気に煽った。


「その前に。正直に答えて。

 リードとは、どこまでいったの?」

「どこって?」


は不安そうに眉を垂らす。

絶妙なタイミングでガルシアが助け舟を出してやる。


「ええとー…だからつまり――ほら、

 リードとはいつも何してるのかなーって」

「なんでスペンサー?」


その瞬間、ガルシアは一気にまくし立てる。


「なんでってあんたいっつもリードと一緒でしょ!

 職場出たらどっちかの家に直行って言ってたじゃん!」

「いつもじゃないよ?」


JJが根気強くの目を覗きこむ。


「いつもじゃないけど…よくそうしてるわよね?

 ――もしかしてもう……合鍵持ってるとか?」


の首がはっきりと頷く。

しかし本人は何が言いたいのかさっぱり解らないと言った表情だ。

プレンティスが困ったように聞く。


「職場でも四六時中一緒にいるのに。いったい2人っきりで何してるのよ」


はたちまち人懐っこい笑顔になる。


「速読会とかするの。…もちろん私が負けちゃうんだけど。

 それからチェスもする。これなら私も勝てるから。

 あとは――最近の学会で発表された

 一番新しい論文について討論したり、

 世界別の古典文学を交互に朗読したり。

 ソファでアイス食べながら借りてきた映画も観るよ」


そう言って笑うは、満ち足りて、愛らしく――何より幸福そうだった。


「…――今まで付き合った男の中でリードは一番最高ってこと、か」


プレンティスもガルシアもJJも――呆れたように、

だがとても愛しげにを見つめていた。

まるで実の姉のような眼差しで――。


「わたし今まで一度も男の人と付き合ったことない」


は今にも泣き出しそうな表情で、3人の姉たちの顔を見渡す。

――だが。

肝心の姉たちは次に口から出る言葉が行方不明になり、

完全に固まりきっている。

強いて言うならガルシアは軽くパニックを起こしている。


「なんで?なんでなんで!?

 駄目だよ、私に嘘つくなんて許さないんだから!

 ちゃんと正直に言っちゃいなよ!」

「正直に…って――だから!わたし何を言えばいいの!」


この小さな空間の中で、

戸惑いと混乱でパニックに陥る女が4人。

ブリーフィング開始まで――あと5分。












 * * *












「じゃあキスとかセックスとか――、

 そういう事もしてねえって言うのか」


リードは文字通りコーヒーを吹き出した。

噎せながら慌ててハンカチを取り出すと、

困惑を隠すようにして神経質そうに口を拭う。


「――手はつないだよ」

「小学生かよ!

 ――ったく…今ここに陪審員がいたら、

 お前のしてることは極刑ものだぞ」


リードは不安げに眉を潜める。


「え…なにその判例、知らないな――。

 ごめん――何年の事件だろう。担当した判事は、」

「例えだ」

「あー…」


モーガンの冷たい視線でようやく全てを察したリードは、

ばつが悪そうに目を彷徨わせた。

――解っている。

正直、リード自身も困っているから

わざわざこうして言い出し難いであろう問題を

正直に打ち明けてくれているのだ。

自分を頼ってくれたリードをこのまま放っておけるほど、

モーガンは大人にはなれないし、何より、

幼少の頃から子供らしいことを体験してこなかったリードが

一生懸命、新しい感情に向き合っているのが嬉しかった。


「――いいか、リード。

 こういう関係が発展していかないのは…男の責任だ」

「ライラは自分からキスした」

「そうだな、あの時は、彼女からした。

 ――で、どうなった。結局ライラとお前は付き合ったか?」


リードは何か言いかけたが、その言葉を発するのを良しとせず、

自ら喉の奥へと押し戻した。


「……僕からキスすれば良いのかな」


モーガンは笑いながらやんわりと首を振った。


「リード。

 お前は優しいし、思いやりがあるし、良い奴だ。

 そんなことしなくていい。

 ――いや、男からするっていうのは悪くないんだ。

 そうじゃなくって、

 何も無理にそうしろって意味じゃないってこと」


リードは少し考えるような素振りを見せ、

納得したように頷きながらモーガンの声に耳を傾ける。


「リードにとって――それからにとって。

 お互いが特別だって。

 代わりの利かない、かけがえの無い存在だって、

 心のどこかで気付いてるからこんなに悩むんだよ。

 お前は相当ウブだけど、もそれに輪をかけてウブだ。

 焦る必要なんかねえよ。

 ――リードがその先を望むなら、

 怖がらずに2人でちゃんと話し合ってみろよ」












会議室に入った途端、の仕事スイッチはオンになる。

先ほどまでの女子会議がまるで嘘のように、

冷静さを帯びてリードと短く挨拶を交わしている。

プレンティスはつい数分前まで必死にまくし立てていた問題が

幻だったのではないかと疑いたくなった。

幸いホッチナーとロッシはまだ来ていない。

プレンティスはモーガンを顎で呼ぶと、

会議室を出て、声を潜めて、

事のあらましを掻い摘んで説明した。


「――俺も同じこと聞かれて、同じこと言った」


ふたりは大きく溜息を吐いた。

BAUの可愛い妹と弟は、何事もなかったように

会議の資料を眺めている。

その姿を見つめながら、プレンティスが呟く。


「…なんだか可哀そうになちゃって。

 あの子たち一体どんな育ち方したの――?」

「さあな――想像もつかねえよ。

 だけどあいつらの居場所は、ちゃんとここにある」


プレンティスは返事の代わりに微笑んだ。


「あーあ。羨ましいなー。

 私はあんな純粋な恋愛したことないもの」


声を出して笑い合う。


「とりあえず仲良く糞まずいコーヒーのおかわりといきますか」

「私FBIのまずいコーヒー大好き」



































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すみません。ついつい。

書いてて楽しくなってしまってしまいました。

20120716 呱々音