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刑務所――そこはが堂々と訪問できるような場所ではなかった。 だが人目を偲んででも行く必要があった。 どうしてもカワードに会わなくてはならない。 黴臭い古めかしい鉄格子に仕切られた部屋で、はカワードを待った。 誰とも告げられていなかったのだろう。 の姿を認めると、カワードは驚き、そして安堵し、悲しげに微笑んだ。
「それはそうでしょう――ここは貴女のような女性が来る場所じゃない」 「…――先日レストレード警部から、 …あの方の身につけていた遺品を受け取りました」
彼もまた忠誠を誓った主に裏切られ、そしてその主を失った、哀れな犬。 それでもカワードがブラックウッドの死に絶望していると、 レストレードから聞いた。 ――同じだ。 そう思ったからこそ、はここまで足を伸ばしたのだ。 ハンドバッグからレースのハンケチを取り出すと、 丁寧にくるみを開け、カワードの方へ差し出してやる。
カメオをまたバッグの中へ大切そうに仕舞いこんだ。
震える手のひらで、下腹部をそっと撫でて――。
かといってお腹の子の本当の親を言うつもりも無ければ 子を手放す気も無いと言う。
そのお腹の子はどうであれ不幸な父親を持つ事にはなるが、 いや――もちろん貴女がそのリスクを負えるというのなら…だが」
父親は大層嘆いたものの、不徳の娘子を財力と権力で守った。 そしてついにカワードの父親と共謀し、 周到な根回しと保釈金を山と詰んでカワード本人を獄中から救い出した。
「…ああ」
とカワードの間にはブラックウッドの亡霊が存在していた。 それでも二人にはこうする以外、選択余地は残されていなかった。
寝息を立てるわが子をそっと揺り籠に寝かしつけて、 は思わず頬を緩めた。 カワードは開け放っていた窓をそっと閉めた。 そよそよと揺れていたカーテンの薄布が動くのを止める。
私達も休もう――が、その前に。少し付き合ってくれないか。 この子を起こしても悪いからね。まず部屋を出よう」
――お前もしっかり休むのですよ?」 「承知致しました。旦那様、奥様、おやすみなさいませ」
家の中はすっかり静まり返り、とカワードの足音だけが耳に届く。 カワードは紳士らしく扉を開き、妻を先に入れてやった。 円卓に常備してあるスコッチを2つのグラスにほんの少々注ぐと、 片方をに差し出した。 子供が生まれてから半年、カワードが檻の外へ出て十ヶ月が経っていた。 血の繋がらぬ我が子――だが思いの外、自分は上手く愛せていると思う。 手を煩わせることもあるが、可愛いものだと思う。 自分の血が通わぬ存在だと言われようが、 あの時――この決断を下した自分を恥じた事は一度もない。 偽りの隠れ蓑として、とその子供を――ブラックウッドの落とし胤を、 頼りないながらにしっかりと庇護してやらなくては――と。 そう想って――。 カワードはグラスの中身を煽ると、意を決したように告白した。
しかし彼は目を逸らしてしまう。
君の心に宿る人を愚弄した――どうか今言ったことは」 「あなたは――、」
「まさか!そんな事は――! …いや――だから、そう――忘れてくれ」
観念したように、彼は訥々と言葉を続けた。
――ましてやその女性の心が、別の者へ向いていると知りながら、 妻に女を望み、従属させるなど――。 一昔前の私ならやりかねないが…」 「私は――あなたが私の心だけでなく、 この身体に――あの方の影を感じるのを恐れていたのです…」
その小さな顎を捉えて切なげに尋ねた。
――これがあの方の愛した肉体か。 実際にこの目で見たかの如く、脳裏に浮かび上がる亡者と女の番う姿。 柔らかい肉に食い込んだ爪、真珠のように白い肌が鬱血する。 杏色の髪を鷲掴み、喉の奥まで使わせて育った雄を硬化させる。 恥じらいに隠れていたはずの小さな芽を長い指は探り当て弄び、 浮いた腰を引き寄せ、無垢な肉襞を裂いて腰を打ち付ける。 ――あの方はどんな風にお前を愛した? ――どこをどんな風に愛撫した? 華奢な肩をそっと撫でて、到底叶うはずもない“あの方”の残り香を探り当てるように、 くん、と鼻を鳴らしながら口づけてやる。
「そんなこと…」 「君は甘い――」
隙間も許さぬほど、腕を、足を、身体を絡め合い、 深い場所を貫き、肉体の悦びに溺れる。 果てるまで何度絶頂を迎えたかわからない――。 安心しきった子供のように、互いの額を寄せ合って。 まどろみに侵食された頃には、もう空は白み始めていた。 |
20120525 呱々音
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