は思った。

なぜ周囲がブラックウッドとの接触を頑なに畏怖し遠ざけてきたのか――。

ヘンリー・ブラックウッドと

血の繋がりこそ無いが、同じ罪を背負って生まれた。

二人の間には因果があったのだ。

トマスとアイリス――ロザラム夫妻を介しての忌まわしい不貞の結晶だ。

父親が過保護なまでに外に出したがらないのも、

闇の力で世界を掌握しようと目論む、死に取り憑かれたブラックウッドの

毒牙と邪眼の餌食になるまいとの必死の想いの現れなのだろう。

だがしかし――今となってはもう手遅れなのだ。

の心はあの男に魅入られてしまった――ブラックウッドの猛禽の眼に。













女としての性を激しく求められたと言うよりも、

ブラックウッドの抱き方はまるで触手がこの身を絡めとるように、

抗えない支配の存在を強く感じさせた。

唇を捧げながら今まで感じたことのない背徳感と欲情の波に戸惑う。

――さりとてブラックウッドも同じ戸惑いの渦中にいた。

ただし彼は感情の判別に心を砕くような真似は決してしない。

互いの熱をより一層煽り、重ねあわせ、女性を抱くには不釣り合いなこの部屋で

しっとりと汗ばんだ首筋と胸元に舌を這わせ、快楽の奈落へと堕としていく。

折れそうな身体に、緊張と弛緩を繰り返す筋肉。

絢爛なドレスをたくし上げ、剥ぎ取り、あらゆる角度で翻弄してやる。

肌にほんのりと咲き誇る、甘く育った乳房を口に含めば、

より一層切なげな嬌声がこぼれ落ち、闇夜に吸い込まれていく。

この時は、すでに自分がブラックウッドの絶対的な支配を受け入れつつあり、

小さな抵抗とは裏腹に、心身は彼への忠誠を誓っている事を感じた。

このような痴態を受け入れる寛大で傲慢な要素が己にあったなんて――。

男を知らぬはずの身体が、狂ったように彼を求めて悶えている。

の押し殺した喉から悦なる声が漏れるたび、

ブラックウッドは言い知れぬ満足を覚えた。

くまなく愛撫を施して、従順になるよう躾けてやる。

長い指先で弄ばれ、泉と化した無垢なる雌に、舌が這って舐め上げられる。

背を反らし、つま先が震える。

膝を着けば髪を掴まれ、彼の雄を小さな口と喉で、喜ばせた。

ふたつの罪深い身体が互いを交わした時、脳と脊髄が焼き切れるような恍惚を知る。

扇情し、そして応えるようにして、最深をえぐる痛みと快感に震え、

ブラックウッドは短い悲鳴と共に己を引き抜き、はその白濁を口で受けた。













果てた身体は図書室の長椅子に散らばって、

とてもじゃないがまともに言うことを聞かない。

いつの間にかブラックウッドの身形は元通り整っている。

つい数分前までの獣のような情事など全く感じさせぬ、涼し気な顔をしている。

はなんとか起き上がろうとした。

彼はしばしそんな様を見ていたが、手を打ち鳴らすと、

扉を開けて1人のメイドが入ってきた。


「身形を整えて差し上げろ――私は馬車で待つ」


メイドは恭しく頭を下げると、一言のおしゃべりもせず、

無駄のない手つきでの髪を元と同じように結い上げ、

乱れた着衣も完璧に整えてしまった。

――私はまだ夢を見ているのかもしれない。

小さな痛みと倦怠感を手助けするように、メイドはの支えになり、

ゆっくりと階下まで付き添ってくれた。

入り口ではカワードが待っていた。


「――馬車にお乗りください。貴方はどうも体調が優れないようだ。

 なにご心配なく――。

 お父上には私が馬車を出して先に帰らせたとちゃんと伝えましょう」


がカワードに促されるまま馬車に足を掛けると、

どこからともなく力強く身体を引き上げられた。

そこでようやく暗闇の中にブラックウッドが待っていた事に気がついた。

彼は難なくの身を馬車の中へ誘うと、カワードと目線を交わし、

馬車はふたりを乗せ、逃げるように走り始めた。


「これは一夜限りの夢だ――解るな?」


ブラックウッドは選択の余地など無いと言わんばかりの声で言った。


「…――お隣に座っても?」

「……」


拒否が返ってこなかったと判断して、はブラックウッドの隣に腰を移した。

狭い馬車が少し軋んだ。


「…――なぜ私を、」


ブラックウッドは明瞭に言い放った。


「簡単なことだ。

 子孫を残す役目はお前以外にはありえない。

 私達の意思など到底及ばぬ、忌まわしい糸でがんじがらめに結ばれた、

 これは必然なのだ。

 ――だが…それは今ではない」


の目は、耳は、身体は、心は――全身全霊で彼の甘い声に絆されている。

抗うことなど適わない――魔性の囁き。


「私はいずれ、この腐敗した英国とかつての植民地、

 そして世界をも掌握する。

 私は人々が闇の魔術と怖れる存在そのものになるのだ。

 この計画は緻密で、そして揺るぎのない確信の上に成り立っている。

 手始めに議会と英国がひれ伏し――そして君は私の血を継ぐ子を受胎するのだ」


彼のダークグリーンの瞳の中で、冷たい青い炎が燃えているようだった。

その火で身を焼かれるような錯覚を起こす。

――ついにブラックウッドに心を奪われてしまった。

長手袋に覆われた手をそっと伸ばし、ブラックウッドの頬に添えた。

彼はそれを拒まなかった。

馬車が停車し、ふたりだけの時間もそこで終わる。

別れの接吻も、抱擁も、そこには無かった。

だが今宵、深く深く刻まれた印によって、が彼の所有物となった事は、

疑いようもない事実だった。



































top /  next


















―――――――――――――――――

20120525 呱々音