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母の毒に、堕ちて。
その様な夜に、唐突に齎された知らせに、政宗とは怪訝な顔をした。
兄政宗、妹――仲の良い兄妹は顔を見合わせた。 お互いの目の内に言い知れぬ懐疑を読み取ったが口には出さなかった。 聞けば「今回の出陣は政宗にとっても伊達にとっても重要で長期の苦難は想像に難くない。 そこで明日見送りの祝宴を開き、膳を囲んで政宗を持て成したい」と云う事だった。 もちろん仕切りは保春院――母――である。 それを聞いて身体を強張らせたのは、何も兄妹だけでは無い――政宗の腹心、片倉小十郎とて同じであった。 幼少の頃、疱瘡を患って以来、政宗を厭わしく思い邪険に扱ってきた実の母親―… 幼い政宗が母を求めて伸ばした手を、幾度と無く拒む姿を目の当たりにしている。 そういった意味で、政宗の母親に対する憧れは一入の物があると知っていて、 小十郎とは互いに視線を交えた。
実母保春院に日頃より冷やかに避けられている事を知っている若い衆、 成実や左馬之助ですら顔に疑心と少しの憤りを露にしていた。 左馬之助などは堪らずに今にも吼え出しそうな勢いである。 しかしちらと盗み見た小十郎の目がそれを窘めていたし、 政宗の手前もあり、肩を強張らせ己の意を飲み込んだ。 黙っていた政宗がふいに口を開く。
「心配すんな小十郎。飯食って酒飲んで帰ってくるだけだ。No problem!」
実の母親に、俄かにでも自分への愛情が残っていたのを喜んでの事であろう。 本来ならば喜ばれるはずである招待も、あの実母からの誘いであると思えば、 悲しくも不審ですらある……だが小十郎も若い衆も、政宗の心情を思うと 無下に咎める事も出来なかった。 使いの者が返事を携え保春院の元へと帰っていくと、 先刻よりずっと黙っていたが哀しげに――だがはっきりと――流麗に陳べた。
「Hum?なんだ?も行きてぇってか?安心しな! どうせ従者を連れてくんだ。お前も付いて来たって平気だろ」 「いえ、そうではなくて」 「?」 「――率直に申し上げますわ。出陣が控える大切な刻、行かれるべきでは御座いません。 それに――母様には…何か思う所が有り気に思えてなりません」
座から腰を上げると、すたすたと部屋を横切り、襖に手をかけ……去り際に呟いた。
「私は」 「……」
政宗が大切に大切に思っている妹の渾身の哀願に、 少しでも彼の心が動かぬものかと成実たちの心は縋る思いだった。 だが政宗は後ろ髪を引かれる思いを、辛そうに断ち切り、 軽率に笑うと「解ってる」と口端で呟き部屋を後にした。
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主はこんな…感じです。
そのくせあくまで小十郎夢だと言い張っていますので
どうぞご理解のうえでお読み頂ければと思います。
補足→ 左馬之助 は ゲームの原田宗時 です(目を反らす)
20090506 呱々音