|
宵の月が眩しいくらいに寝殿へ差し込む。
同時に、憐れみの念をも懐いている。 その母が――あの聡明で美しい母が――実の子である政宗を否定する様を幾度と無く見続けてきた。 (――流石の私ですら懐疑の念のひとつも浮かぶと云うもの――) 兄は――政宗は――解っていて行くのやも知れぬ、と思った。 (――或いは私が愚かなだけなのかしら……それならそうであって欲しい――) その時、廊下に人気を感じ耳だけで気配を感じ取っていると、 障子越しにの恋人の声がする―――小十郎、その人である。
「どうぞ」
麗しかった。 見慣れているというのに、それでも小十郎は目の前の美しい存在に、思わず目を奪われた。 髪に月明かりを浴びせて、目が合うと彼女は悲しげに微笑んだ。
「小十郎に嘘は吐けませんね」 「様――その様に深く思い詰めてはお身体に触ります」 「…小十郎、呼び捨てで構わないわ」
昼間二人の間で交わされている『様』を喉の奥に仕舞いこんだ。
…もう気になさるな。政宗様の身は、この小十郎が責任を持ってお護りします」 「ええもちろん。私は誰よりも小十郎を信じていますもの、」
そっと指を添えてやる。 気持ちは痛いほどによく解る。 自分とて同じ気持ちなのだ――だからこそ、命に代えても筆頭の身を護らなくてはならない――。
「……?」 「……俺の胸を使うといい――。 そうすればの泪と共に明日の誓いが沁み込んで、 より一層強く、政宗様をお護り出来きる」 「小十郎、」
新しい地を教え、新しい色を教え、新しい武を教えた。 政宗もも、その美しい眼を輝かせて小十郎の名前を呼び続けた。 全幅の信頼を寄せている証であった。 その証を糧としたのか――どちらともなく心惹かれあってしまった。 身を弁えるべきであるのに、目が合えば狂おしさに身を裂く思いがした。 この人しかいない――それが二人の辿り着いた答であった。 切ない関係に苦しむ小十郎を、主従の関係の後ろめたさから解放したのは 意外にもと小十郎の告白を聞き、散々暴れまわり怒って清々した政宗の一言であった。
二人で居る時にふとこぼれる儚げな仕草が、小十郎の気に入りであった。
経験が物を言う場合とは違い、ひらめきに近い。
隊列が俊敏さを欠く時は脚の悪い馬を見つけ、 出陣する時は筆頭の命の前に必ず布陣に目が通される。 人にこれを根拠が薄いだとか運任せだととか云われようが、 実際の所それ程にの勘の鋭さには重きが置かれていた。
同じ曇りを払拭するように、小十郎は胸に顔を這わせるを、より一層強く抱き締めた。 こうしていると不思議と気持ちは落ち着き、まどろみの縁すら思わせる。 白く光るの首の後ろに手を差し入れれば和毛の柔らかさが指を伝う。 合図を悟ったかのように、の秀麗な面が小十郎の目を仰ぎ見た。 腫れたように熱を持った唇に、小十郎は躊躇いがちに――そして溺れるように、己の口を重ねた。
解っている――を女にしたのは小十郎。
同じ様に小十郎を男にしてしまうのもなのだ。
抱き合って不安が解消されるならずっと抱き合っている。 だが――そうではないから。
「…―性分なのです…手が付けられなくなってからでは、遅い」 「では…私の我侭を聞いてくれますか、」 「ご随意に」
……小十郎、貴方の肌に…触れても良いですか」
私はもう大丈夫です…気にせず行かれて」
勘良く先手を打たれ、日の出と共に小十郎は口惜しげに自室へと帰っていった。 それを見送りは襦袢姿でしばしの眠りに就いた。
・ ・
背の高い茂みに身を潜め、かと言って隠れるわけでもなく息を殺し、 凝として何かが目の前に現れるのを只管に待っている。 蛇の目がちらりと赤く光った。 対する側に――白鼬の子供が飛び出してきた。 白鼬の片目は潰れている。 動きは美しく俊敏だが、疑う事もせず草の茂みに向かって歩き出す。 (――ああ行ってはいけない――!) 蛇はいよいよしなやかに身体を伸ばしたかと思うと、 隠し持っていた毒牙で、白鼬の首に齧り付いた。 白鼬は虚しくのた打ち回ってその毛を土に汚す。
・ ・
(――やはり善くない事が起こる――不吉だ!) この夢の事を政宗に話して、行ってはならないと懇願しよう――が床を出ると、 別室に控えていたのだろう女中が着物を携えて襖を開けた。
「お言葉ですが、小十郎様はお留守に御座ります」
何でも時刻が早まったとの事に御座ります」 「嗚呼!」
(――母様は兄への不吉事から私を遠ざけるおつもりだったのだ――) ならばこちらも全力を持って阻止せねばならぬと硬く誓った。 (――諦めてなるものか――!)
|
政宗のパパ(輝宗)がイタチっぽかったらしく←
じゃあジュニアもやっぱりイタチだろ!と思って
へビ(奥方)VS白イタチ(子)にしてみました。
なんと単純な私の脳みそ/^ω^\
恥じます。
20090506 呱々音