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水で薄めた牛乳の様に、ぼんやりと覚束ない―…しかし見えない訳ではない。 かと言って明瞭に見える訳でもない。 ただはっきりと理解できるのはひとつ、 白濁した水中に心地よく漂っている―…それだけだ。 ―カツカツ―カツカツ― ん?ああ、なんだ。 耳慣れた懐かしい音だ、ロクアの種を砕く音だ。 ではあいつが帰ってきたのだろう―…そうだ…きっとそうに違いない―…。
不自然な時間帯にカツカツとガラスを叩く音が聞こえた。 相変わらずの薄い眠りから目を覚ましてみると、 一羽の黒いまだら羽の大きな梟が、小さな採光窓の外からこちらを睨みつけている。 本来の時間外の仕事のせいなのか梟は不機嫌さを露に、再度ガラスを嘴で叩く。 こちらは間違いなく、その梟の何倍も不機嫌だと言わんばかりに額に皺を刻むと、 ひどく大儀な仕草でベッドから離れ、仕方なく窓を開けてやった。 滑り込むように部屋に舞い込んだ梟は、枯れ枝のように細い足をこちらに投げ出し、 巻き付けられた郵便を取るよう促した。 (こんな早朝から……一体何処の非常識な人間からだ………) 素早い手付きで手紙を取ると、長旅をして来たであろう梟の前に 就寝前に淹れ冷めきった、飲みかけの紅茶のカップを、突きつけるように差し出す。 しかし梟はすぐそれに口を付けるような不躾な真似はせず、 じっとこちらを見つめ許可を請おうと伺っている。 (…良く出来た梟だ) 筒状の手紙を留めている蝋を外しながら「飲みたまえ」と冷やかに呟く。 すると梟はようやく恭しく喉を潤し始めた。 (このような形で睡眠を妨げられるとは… 我輩もこの梟も飛んだ災難に見舞われたものだ) 広げた羊皮紙の文字の羅列があまりにも衝撃的だっ たため、
しばし息をするのも忘れたように思う。
賢い梟はホゥとひとつ鳴くと、朝焼けの空に飛び立っていった。 その鳴声でたちまち我に返る。 弾かれたようにマントルピースの上に置かれた時計を睨む。 (…―まだ5時、か…) 白いインクで書かれた文字の羅列の存在だけで、 自分のペースがこんなにも乱され浮き足立った事に、少なからず腹が立った。 非常識な手紙に対するささやかな抵抗として、 今この不躾な時間帯に相手を訪問する事で鬱憤を晴らす事も、 正直考えない訳でもなかったが―…、いや、さすがに良い歳だ。 大人気の無い行動は慎むよう、理性によってあえ無く却下しておいた。 再度寝具に包まってもきっと穏やかな睡魔など襲ってはこないのは明らかだったので、 半ば投げやりに着替え、勢い良く寝室のドアを開けると、 真っ直ぐに研究室の定位置―書物や羊皮紙、羽根ペンなどが並ぶ机―に腰掛けた。 机の引き出しをすっと手前に引くと、草臥れた羊皮紙の束を取り出して、 この時を待っていたと言わんばかりに机に広げて、しばし紙束を凝視する。 もう何度となく舐めるように読み込んだ。 しかしながら今再び、小さな文字と流線型の美しい文字で びっしりと埋め尽くされた羊皮紙を、捲り始めるとしよう。 束の間ではあろうが、時間の事も、先刻の不満も、忘れられるはずだ。
我輩はただ忙しなく、左から右へと只管に視線を動かした。
旅行用のローブを羽織ると、地上への螺旋階段を駆け上り、 騒がしい生徒達がすっかり消え失せ、 静寂に包まれた廊下を踵を鳴らしながら通り過ぎ、 「蛙チョコチョコ実チョコチョコ」と唱えてガーゴイルを退かし、 校長室の扉をノックした。 「お入り」 「おはようございます、校長」 「ああ、おはよう、セブルス。丁度よい、掛けてお茶でも飲まんかね」 ダンブルドアはこちらの返事を待たずに杖を一振りして熱い紅茶を用意した。 勧められた椅子に腰掛け、ダンブルドアと向き合うと、紅茶に口を付けながら切り出した。 「どうやらが帰って来たようです」 「ほう!それは真に良い知らせじゃ」 老人は少年のそれと同じかそれ以上に、半月眼鏡から目をキラキラと輝かせた。 「以前申し上げた通りが帰ってきたのであれば、今年の授業では当然―」 「宜しい宜しい、大いに結構じゃ。わしはが君の頼みを断るとは思ってはおらんしのう」 ダンブルドアは満足そうに微笑んだ。 「これで彼女のお父上の不安も、多少なりとも和らぐじゃろうて」 「そうでしょうな」 我輩がフルーパウダーをあまり好まない―否、灰が付く―のを知っているダンブルドアは 退室する我輩の背中に「たしか君に煙突を勧める必要はなかったはずじゃな」 |
さん登場しなくてごめんなさい。
無駄に画像とか使ってごめんなさい。
ロクアの種は勝手に作りましたごめんなさい。
びわみたいな形の種です(多分)
200806019 狐々音
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