女と肌を合わせれば、この想いも少しは紛れた。

その場しのぎと言われようが何も構うものか。

あの子を――を、

抱かぬために、抱くのだ。

あれは決して穢してはならぬから――。

の肌に毒牙を立てずに済むのなら、幾らだって女を抱いた。

夜、寝台に忍び込んで来る、幼く残酷で、甘美な香りに耐えられるように――。

束の間の眠りの刻までも、養親として、慈しみの繭となりの小さな身を抱き締めてやれるように――。

狐の髪を指に絡めて安堵するその様を――微笑んで眺められるように――…。

柔らかな頬に顔を寄せたとき鼻を擽る甘い香りも、

たおやかに揺れる艶髪も、潤む瞳も――雲雀の声も――。

罪深いほど愛おしい。

何人たりとも侵せぬ――至純の桜。
















志萬夢は――――似ていた。

と似た、危うい存在感を纏う美しい貴人であった。

もちろん、差異もある。

夢は、とは違い――魔性であった。

人の皮を着た、魔女の誘惑――至極孤高の、絶対的な魅惑。

罪人たる鬼は――魔性に惹かれた。






その頃既に――を見る事も、小さな苦痛となった。

無防備で穢れを知らぬ清らかな存在――目に盛る、それは毒――。

魔性に中てられ――無垢な娘を欲のままに抱きたく成る事もざらであったから――。

その度に、己の理性を暴力的なまでに嬲り、見下し、辱め、

手を出せ欲しいままにとほくそえむ、魔女(ゆめ)の顔が目にちら付いた。






ああ夢よ――腹が立つほど美しや。


美は毒よ。


毒を盛られて苦しむのは――試されているようで泣きたくなった。


いつかあの魔女に――、


弄ばれた報復を、呉れてやりたい程に――。































血に塗れる浄阿弥の首を手繰った手で、

の小さな顔を包むはめになるなど――。

これは夢か幻か――どちらかでなければならない。

ならないはずなのに――。

悪夢は醒めなかった。

血が抜け切った蒼白の我が子――我が、焦がれ人――!

もう薫る事を止めた、の麝香がひどく恋しくなった。

嗚呼――なんという呪い――。

それでも――儚く散った命どもは、狐が死ぬ事を許してはくれなかった。

生き残った罪がある、生き続けなければならぬと――。

人間は罪深い――ならば罪人は罪人らしく、罪の象徴である、人の形となろうぞ。

人は罪。

形を変え、人の――罪の世で、見届けるのだ。

刻が来る、その日まで。






















  ・ ・ ・




















暴れ疲れた鬼が主の――九条三郎の形へ再び戻ると、

叢雲はそれを摘んで、物言わず部屋を後にした。



狐は――弾かれたように小さな躯体を押し倒した。

甘く育った身体に溺れ――。

桜は目眩く悲願に幸の泪を流し、

受け入れるために堅く眼を閉じた。




声を漏らし



肌に朱を散らせ



歯形を付け



魔物どもは褥に狂った。





























果てたの気怠く横たえる肢体の肌、

そこに棲まう蒼目の白虎の墨を、すっと手の甲で撫ぜてやる。

汗は引き、さらりとした若肌は少し冷たかった。

やおら眼を狐に向ければ――そこにもう紺之介は居らず、

白狐の姿が妖しく微笑んでいた。

煙管を片手に月の光を浴びて――至極、満ち足りた表情をしている。

が徐に起き上がろうとする素振りを見て、白狐は諭した。



「起き上がれないよ。僕も久々だったし――大人気なく結構無茶させちゃったからねえ。

 身体が識らないコトだからさ――――今は…おとなしく眠った方が良いよ」



ね、と付け添えて。

素直にひとつ頷けば、良い子だねと笑う。

華奢な白狐はそれでも男で、腕に見合わぬ力での身を掬い上げると、

敷いた布団の上に寝かせ、人形を愛でるが如く、

冷めた白肌に朱い襦袢を着せてやった。

柔らかな髪の掛かる額をそっと撫でてやる――、

するとはゆっくりと瞼を閉じて、眠る事を始めた。









もう二度と――


手放してなど――やるものか――。










分け与えた熱の所在を確かめるように、

白狐はの唇に接吻(くちづけ)た。




































06 / 表紙へ






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こんなところまでお付き合い下さいまして、ありがとうございました!

感想などございましたらぜひに頂ければと思います…(土下座)

20090928 呱々音