クレインが帰宅すると、食卓には豪華な食事が用意されていた。

あからさまに眉を歪めて聞く。


「…誰がこんなに食べるんだ」

「ごめんなさい、ちょっと作りすぎちゃったの――冷凍しておけば保つから、」


どれも――好きだと口にした事はないが――クレインが好きな物ばかりだった。


「…――何があった」


は食器を並べながら笑った。


「昼間デュカードさんが…ここへ来たの。明後日、ヒマラヤへ帰るって、」


どこかぎこちない口調――。

それはがクレインに対して明らかに不慣れな態度を強いられているからだと、

彼はもうすでに気付いていた。

はクレインに決して虚偽を吐けるような体質ではない。

そんな風には仕込まれていない。

気丈に微笑んで見せるの姿は、いっそ痛々しくもあった。


「…彼に何を言われた」


は俯いたまま、目を合わせずに小さく呟いた。


「――私…彼に、付いていくことに、なった」


クレインは神経質そうに眼鏡を外すと、少し考える素振りを見せ、イライラした口調で続けた。


「どういう事だ。この計画にお前が必要だとでも言われたか?」


彼はを見据えたまま、落ち着かない様子で口元を撫でる。


「…――いいや駄目だ。私はそんな話、聞いていない。彼に連絡を、」

「それで――それでどうするの?彼を説得するの?

 ねえ、先生…そんなこと出来ると思う?

 違うでしょ…今、先生がすべき事は、薬を作ることなんだもん。

 ねえ…ねえ、先生、お願い…先生の、ジョナサンのために…デュカードの言う通りに」


のか細い手は、必死にクレインのシャツを掴み、揺れる瞳は彼の青い瞳を見上げて懇願する。

少女は小刻みに震え、男の胸に顔を埋めて縋り付いて泣いた。


「私…すぐジョナサンの腕の中に帰ってくる。

 ――帰ったら…お咎めも、お仕置きも――いくらだって、受けます、」


が明らかな意思を持って、クレインの強い要望を受け入れなかったのは、これが初めてだった。

事実、今ここできっと「行くな」と命令すれば、は従うだろう。

それは長年かけての心身に仕込んで来たクレインが一番良く知っている。

だが――が言う事もまた痛い事実に違いなかった。

影の同盟の意思に逆らうリスクは――侵せない。

懇願の瞳を見つめたまま、クレインは問う。


「私が今すぐここで死ねと命じたら…お前は死ぬか?」


は――微笑んだ。

その愛らしい口元に満月のように恍惚とした微笑を湛え、しっかりとひとつ、頷いて見せた。

クレインは、安堵した。


「…――好きにしろ」

「…ありがとう、先生」

「それから。――コンテナを持ってこい。この食事をさっさと冷凍しなきゃならない。

 …――こんなに食べないだろ」


二人は手分けしてコンテナに料理を小分けして、すっかり机の上が寂しくなってから、

ようやくささやかなディナーにありついた。






食事を終えると、クレインは早々に書斎に姿を消してしまった。

は後片付けを済ませると、教科書を片手間に開いて授業の予習をながら

トトの綺麗な赤毛にブラシを充ててやった。

デュカードはトトも連れてこいと言っていた――。

――それがどういう意図を持つのか――。

またどんな方法で、すでに曖昧な記憶へと変貌を遂げた恐怖と向き合えと言うのか――。

クレインの屈辱的な妥協を思うと、何を優先すべきだったのかと――。

ほんの少しだけ、決心が揺らいだような気がした。
















この家で一番平静で居られる場所に腰を据える。

虚空を見つめる。

焦点はとりとめもない。

何を見ている訳でもない。

とにかく――頭の中を整理する事に必死だった。

を一時でも手放し、ヒマラヤへ行かせるなど――。

結果として人質を取られているような気がしてならない。

それも既に予見の範疇ではあったが

――まさかいきなり影の同盟の本拠地へ行く事になろうとは――。

危険な目に遭うのは互いの覚悟の上だったとは言え、

いざなってみれば――この心は全く穏やかではいられなかった。

(無様なものだ)

向こうへ行ってどんな目に遭うかなど想像も出来なかった。

デュカードはを気に入っている――酷い目には遭わせるような事はないだろう。

だがデュカード以外の人間が、彼と同じようにを扱う保証など、どこにも無い。

ましてや治安が良いとは言えない。

この世は野蛮な人間で溢れ返っている。

その事は誰よりも深く理解しているつもりだ。

影の同盟に属する者は――無慈悲で残酷――復讐や憎しみを糧とする。

容赦などしない。

手厚く持て成され帰ってこれるなどとは、だって思っていないだろう。

どうやら――ここまでのようだ。

チラリと時計を見る。

時計の針はすで22時を回っていた。

明日では間に合わないだろう。

は明後日ヒマラヤへ発つと言っていた…時は急を要する。

クレインはもう――心を決めていた。

ネクタイを緩め、部屋を出る。

リビングではがトトにブラッシングをしてやっていた。

クレインの気配に気がついて、が顔を上げる。

エメラルドの瞳と、サファイアの瞳が見つめ合う。



は――美しかった。



一瞬にして血管が沸き、男の胸を圧迫する。

この穢れを知らぬ存在が、手元を離れたとき――。

万が一では済まされぬ。

それはのために彼が大切に庇護してきた物。

手遅れになってからでは――取り返しがつかない――。

クレインは少女に宣告した。


「今夜、お前を抱く」


は何も、返せなかった。

新緑の瞳を見開き、ただクレインから目を剥がせずにいる。


「――いいな?」


それがの同意を求める意味だというのを悟り、は我に返った。

だがやはり目は剥がせなかった。

クレインの碧眼に視つめられて、逃れられた事など一度もない。


「…――はい、」


答えはもうずっと前から決まっていた――。

それでも。

かろうじて喉を震わせ、それだけ返すのがやっとだった。

その返事を聞き届けると、クレインはバスルームへと姿を消した。
















クレインに触れられるのが好きだ。

口調とは裏腹に、甘く柔らかな手つきで、この身体を安堵させてくれる。

彼になら何をされても良いと、そう思って生きて来た。

今、二人の間で厳かに護られて来た壁を、儀式を持って超えようとしている。

にとっては未知の世界――その導き手は、クレイン以外は有り得ない。

いつもよりぬるめのシャワーを浴びて、頭を冷やす。

だが躯だけは熱を持ちつつある。

身の内に潜む若い子鹿が暴れているようで、なんだか居たたまれなかった。

丁寧に身体を洗い、出来る限り清らかになるよう努める。

触れられるのとは違う。

戯れの愛撫とも違う。

彼はその先を与えると言ってくれたのだ。

身体から雫を拭き取る頃には、もう心臓が胸を裂いて飛び出さんばかりだった。

髪を乾かしている時間すらもどかしくて、結局途中で止めてしまった。

丁寧に溶かしてごまかしてみる。

自分が一番気に入っている下着と寝間着を纏って、鏡を見つめる。

言い表す事の叶わない期待と不安に、目を反らすと、

はぬいぐるみを抱きしめて、躊躇いがちに寝室へと向かった。






ベッドの上ではクレインが本を広げていた。

部屋の入り口で恥じらいに俯いているを見留めると、本を閉じ、

まだ少し湿り気を帯びている髪を掻き揚げ、身体を起こした。


「――来い」


は小さく頷いて、ゆっくりと足を動かす。

2歩、3歩と歩く間に、俯く視界にクレインの足が映り込む。

は思わず顔を上げた。

そこには――彼の美しい顔があった。

たまらなかった――レンズ越しとて、海のように青い瞳は、この身を絡めとって放さない。

クレインは眼鏡を外し、の手からぬいぐるみを抜き取ると、

それらをベッド脇のサイドテーブルの上に置いた。

両の手を伸ばし、そっとの頬を包み込む。


「お前は…本当に綺麗だな。

 …――何だ――緊張してるのか?」


は頬を染めて瞳を潤ませた。

羞恥に観念して頷けば、クレインは小さく「安心しろ」と言った。


「…――私もだ」


頬を拘束されたまま、儀式は始まった。

クレインの唇は、の唇を愛し気に啄む。

甘く――そして徐々に激しく。

与えられた事の無い手練手管の往来に、は為す術も無く翻弄される。

口内を犯す舌先も、首筋を愛撫する手つきも――、

全てが性的な快楽を誘発するための動きだった。

今更ながらクレインという男が、を聖少女としてどれほど崇拝していたかが、痛い程に解った。

それでも――クレインは愛おしいまでに、繊細さと大胆さを駆使してみせる。

固く結んでいたの口から、本能的な溜息が漏れた瞬間、クレインは身を引いた。

指先で爪弾くようにして、の纏っている衣服を取り去る。

ここまで成長を見守って来たからこそ、クレインは思う。

の躯は毎日生まれ変わり、新しくなっていくのだ。

だから今宵この瞬間、眼前に晒されたこの麗しき少女の躯体は、

前回この指でなぞった物とは、似て非なる物だ――。

はもう立っているのがやっとだった。

縋るようにクレインの腕の中に頽れる。

男は少女を軽々と抱き上げると、ベッドの上にそっと座らせた。

彼も覗き込むようにベッドの縁に体重を預ける。

そこでもう一度、互いの唇を捧げ合う。

の細い手が伸ばされる。

クレインのTシャツを掴むと、幾分ぎこちなく、それをたくし上げた。

生まれたままの姿が夜に晒される。

そうしてしっとりと互いの肌を合わせて、荒れ狂う心臓の音を感じる。

の躯は少しの力でいとも簡単に押し倒されて、シーツの海に豊かな金糸の花が咲く。

少女の投げ出された躯は、まるで彼に捧げられた無防備な供物のようで――。

クレインはなだらかな双の丸みを掌で包み込み、解きほぐすように動かす。

淡く桃色に染まる小さな真珠を口に含めば、はたまらなさに身をよじる。

それは次第に固さを増し、彼の舌を喜ばせた。

初心な肌を這う愛撫に、背筋を駆け抜ける痺れ――。

はクレインの一挙一動に従順に反応する自分の敏感な躯が

疎ましくもあり、誇らしくもあった。

少女の首筋に思う存分、赤い印を散らしてやる。

は満足した猫のようにうっとりと笑うと「もっと残して」とせがんだ。

クレインがの唇を塞ぐ。

そして今まで誰も触れた事の無い、丘を覆う若い茂みをかき分け、

――彼の指はを愛撫した。

は必死に口を動かしキスを続けたが、それもたちまちに覚束なくなり、

顔を背けて微かに喘ぎ出す。

口元を押さえて、必死にそれを留めようとする。

だがそれが無駄な行為だと、クレインは知っていた。


「――さすがに感度が良いな。

 濡れるのも早い」


は羞恥に目を瞑り、首を振った。

クレインは細い手首を拘束する。


「自分で触って確かめてみろ」

「っや…」


惜しげも無く濡れそぼつ己の蕾に、の顔が朱に染まった。

思わず手を引くが、クレインはその手首を捕まえたまま解放してはくれない。

の指先で艶かしく光るそれを、彼は抵抗も無く嘗めとった。

鋭い眼光がを見据えて射抜く。

脳が焼き切れるほどの恍惚がの指先から躯を走り抜ける。

それに乗じて抜け目無く、クレインの指は再び少女の下腹部に愛撫を与え出す。

忍耐強く、熱心に、時に激しく――の躯は翻弄される。

濡れた声が徐々に大きくなるにつれ、彼の指も容赦を忘れる。

そうしてクレインの碧眼は、の絶頂をしかと見届けた。

少女は未知の快感に、声を忘れ、躯を震わせ、しなやかに肢体を反り返し――。

その様の見事な美しさ――それはクレインにとって呼吸をわすれるほどの恍惚を齎した。

若芽に口を宛てがって舌を這わせれば、その快楽の波はの躯に押し寄せる。

泣き声とも取れる嬌声と水音が、秘された空間を埋めてゆく。

散らばった躯を集めるように、クレインはを腕の中に閉じ込めた。

それに応えるように、も彼の背に指を這わせる。

の小さな口が、怖ず怖ずと彼の乳房を甘噛みする。

あどけなく彷徨う少女の指先が今度はクレインの下腹部へ伸び、

彼の雄を探り当てて、一瞬動きが止まった。

鼓動に小さな胸を逸らせながら、そそり立つそれに、清らかな唇で触れようとした――刹那。

クレインはそれを制した。


「そんな事しなくていい、」


は切な気に眉を垂らし、瞳を潤ませて聞いた。


「…――嫌?」

「――そういう訳じゃないが――、」

「お返しが、したい」

「…――後悔するなよ」


天使は恐る恐る――啄むように先を嘗め、指先で弄び、嘗め上げ、小さな口いっぱいに彼を含む。

男の口からたまらない声洩れる。


「く――、っ、…――そんなに、がっつくな――、

 ゆっくりだ――そう…、ゆっくり――は」


クレインは豊かな金の巻き毛を優しく掴むと、の動きを導くように、

ゆっくりと前後に動かした。

は懸命に彼の物をくわえる。

クレインは絶頂を恐れてから身を引き離そうとしたが、はそれを拒んだ。

短いうめき声と共に、それはの口内へと散らばる。

慌ててを見るが、クレインの欲を残らず飲み下した後だった。

白濁した雫が愛らしい口端を伝う。

彼は長い指先でそれを拭ってやった。

少女はその手を捕まえると、彼の指先を伝う一滴を舌先で嘗めとって彼の瞳を見つめた。

の腕を引き、押し倒す。

自分の下で、彼女は待っていた。

女になるための儀式を――。

ゴムをくわえて開封する。

クレインは最後の尋問をした。


「いいんだな」

「うん」

「最初はきっと痛みだけだ」

「いい――かまわない」

「…――入れるぞ」


無垢な肉を割くようにして、彼は己を突き刺す。

濡れてはいる――が。


「…っ、馬鹿娘、力を抜け」

「あ、」


眉間に皺を刻み、クレインは忍耐強く腰を進める。


「っせん、せ」

「違う…っ、――名前、を」

「ナ――ジョナサ、あっ」


かなり苦しい。

だが――悪くは無い。

赤い蜜が泣く。


「っ…、入ったぞ――


腕を回し、身を寄せ合い、おそらく少女にとっては快楽とは無縁のこの一方的な行為に耽る。

腰を動かせば、は奥歯を噛み締め、小さな悲鳴を漏らし、涙を流した。

赤い花が広がる。

かなり苦しいが――悪くは無い。


――、…っ」


窮屈な内壁に己を擦り付け――クレインはの中で達した。

クレインの首筋に小さな歯形が残る。

はついに最後まで、痛いと漏らすことはなかった。


「…ジョナ、サン…、」


エメラルドの瞳は泣いていた。


「大好きよ――だからすぐ、ここへ戻る。

 ――私はここへ…帰ってくる」


彼の顔の至る所に、何度も、何度も、口吻けを浴びせる。

困憊を滲ませながらもうっとりとしたその行為は、彼を労るように雪いだ。



































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ベッドの上で本呼んで待ってるけど、内容はほとんど入ってこないでしょうよ。

他人に奪われるくらいなら奪っとく。

っていうか俺の物って印つけとく。

ヤンデレですねえ…どうしようもないなこの二人は…。

20110801 呱々音