幸か不幸か――が早急に飲ませた撥毒丸が功を奏し、政宗は一命を取り留めた。



容態が安定すると政宗は項垂れるように気を失い床に就いた。

外はすっかり暗くなっている。

は随分長い事、まだ少し青白い政宗の寝顔を見ていたが、

気付いたように立ち上がると、するすると襖を開け、 心配そうに控えていた若い衆たちに労いの声を掛けた。


「政兄様はもう大丈夫です――貴方達にも心配を掛けました。

 疲れたでしょう…あとは私が側にいます。

 本来なら明日が出陣の予定――明日に備え、もうお休みなさい」


小声でそう囁くと、若い衆たちは顔を上げ、物言いたげにではあったが

気持ちを切り替えて部屋へと帰って行った。

最後に残った左馬之助と成実も互いに顔を見合わせると、小さく頷き戻っていった。

政宗の部屋にはと――厳しい顔をした小十郎のみが残った。

は静かに襖を閉めると、小十郎に背を向けたまま肩を震わせた――泣いていた。


「っ……何という事でしょう」

…様……、」

「ま――政宗という人は…おそらく母を、憎めども、…殺せません、」

様、」

「母はっ、何故この、ような連鎖を、望むの、でしょうか」

「――


小十郎はその良く通る声で名を呼んだ。

ははっとして振り返った。

いつだって曇りの無い目で道を正してくれた小十郎の姿がそこにはあった。



「お強くあられませ」



真っ直ぐに目を見据え、淀みなく諭された。

小十郎とて心中は歯痒く苦い思いを抱いているに違いないのだ。

さりとて長引かせ断ち切れなくなった後悔が、いかに無意味かを善く知っているのであろう。

小十郎の苦心はもう此処には無く、既に明日より先の政宗の御身にあった。

は――目が覚める思いがした。

くっと唇を噛締めると、断ち切るように頭を振った。


「……何が起ころうとも――私は伊達政宗を助けて参りましょう――そして、」


小十郎は静かに立ち上がると、少し冷えたの背中をその逞しい腕で包み込んだ。


「――貴方の善き妻となるために――麗しく戦国乱世を生き抜いて見せます」


は護るように覆い被さった背の温もりにそっとと目を閉じた。

















  * * *















不穏な日より二日後――政宗は目を覚ました。

献身的に兄の側に寄り添っていたを、当たり前の様に見つけると、

擦れた声で呻くように呟いた。


「……――湿気た面してんじゃねぇよ」

「!あら。政兄様こそ、」

「……――Shit…また心配かけちまったな」

「……それだけ御自覚があるのなら、今回は見逃しますわ」


すると政宗は虚ろだった独眼を微かに笑わせた。


「………――小十郎」

「はっ!」


政宗は天井を凝視したまましばし沈黙したが――躊躇い無く訊いた。



「毒だな?」



小十郎の首筋に一瞬緊張が走ったが、小十郎も覚悟は出来ていた。


「……―――紛う事無き、毒に御座ります」

「…All right.」




独眼が思案に揺れていた。




つっと雨筋が垂れたかと思うと、酷く痛ましい表情を浮かべた。

しかし次の瞬間にはもう――陰惨な何かが龍の眼に宿っていた。


「Hey,そこの馬couple.」



薄々察していた最悪の刻に差し掛かる。



「…―小次郎を呼んで来い」

「―っ!」

「政宗様―…っ、」



修羅の道を与えられた龍はもう何も言わず、二人の顔を見ると泣きそうな顔で微笑んだ。

















  * * *















足取りは確かなのに何処と無く陰鬱な虚脱感に苛まれながら、

小十郎とは二日前に駆け戻った道を再び戻っていく。

人に見られる事も憚らず、二人は互いの手を握り締めていた。

――家督争いに終止符が打たれるのだ。




政宗が継ぎし後も、なおも小次郎こそが家督に相応しいと譲らぬ母、保春院――。

なんと愚かで呪われた――。




片倉小十郎、伊達という両名の訪問に、保春院は怪訝な顔をしたが、

小次郎はもう悟っていたかのように、迷い無く素直に兄からの呼び出しに従った。

三度館への道を歩きながら、小十郎と妹の並ぶ姿を見て、小次郎は笑った。


「仲睦まじい夫婦のようだね」

「っ…竺丸兄様!」

「隠さずとも良いさ。こちらの館でも微かに聞き及んでいるよ。

 あの頑固な兄上が了承するのも私は納得だし――亡き父上もお前たちを誇りに思うだろう」


妹の朱に染まった頬を見て、兄は笑った。


「そのような勿体無きお言葉……、感激の極みに御座ります」


そう云って小十郎は優しく微笑むと、深く頭を下げた。





















 














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内容以前に政宗による「馬couple」発言に刮目せよ、ですね。わかります。

×馬カップル   ○バカップル

That's right\^ρ^/

20090506 呱々音