「鬼灯様はおやさしい」
ちまりちまりと針仕事をやりながら、の口元は微笑んでいる。 ぴん、と糸を張る。 朱い紅をさした唇を糸にあてがい、ぷつりと糸を切るその姿がやけに艶やかである。 鬼灯はそんな様を見て、美しい、と思った。
地獄というのは曲者揃いのぶっ飛び案件で溢れかえっている。 かく言うこのも、しとやかでありながら大層肝の座った女獄卒である。 第三補佐官の地位に甘んじている理由も、鬼灯が第一補佐官として閻魔の元に仕える理由と似ていた。 いろいろ省いて簡単に言うとすれば、ようは質の似ている“地獄の黒幕”同士、という塩梅である。
袖を通しながら礼を伝える。
等割地獄でなかなか珍しいわんわん大乱闘に巻き込まれてしまいましてね」 「そんなのただのふれあい動物園じゃないですか」 「まあそう言えなくもないですが、実際はもう少しどぎついですよ」
その指の先には、愛らしい桜色の小さな爪がついている。 ほっそりとした白い手首を、鬼灯は掴んでいた。
は弾かれた様に鬼灯の目を見ると、頬を染めて、再び目を逸らした。
このは、男ばかりの職場で伊達に補佐官業務をぶん回してきていない。 普段はとにかく仕事、仕事、仕事。 下の面倒もよく見るし、自分のことは二の次と言ったところも少々ある。 凛々しくて、聡明で、とにかく働き者。 彼女のことを鬼灯の影の右腕と人は呼ぶ。実際過言ではない。
ふたりの時だけに許された、時別な声音でその名を呼んでやろう。
惚れた男に名を呼ばれたばかりに、まじないにでもかかったようになっていた。 呼ばれるがまま、吸い寄せられる。 鬼につかまる。
「…ほお、ずき」 「」 「鬼灯」 「」
「私もです」
幼い頃、は身体が弱かった。 鬼なのにおかしいと揶揄われた。 なかなか外に遊びにいけぬの元に、鬼灯はひょっこり現れた。 以来、暇を作ってはあししげく通ってくれたのだ。 鬼灯の存在はの宝物だった。 彼の薬草の研究もそれに起因するところがあった。 を治してやりたいと、一念発起し、結果、治した。 すっかり元気になったが迷わず閻魔庁に就職し、自力で昇進し、 晴れて鬼灯の部下となってから、ようやく今の関係に落ち着いた。
普段の大胆さからは想像できぬほど優しく。 まるで壊れ物にでも触れるみたいに。 少し身を屈めるようにして、口付けられる。 恍惚とした熱が行き交い、脳が甘く痺れるようだ。
呼吸が乱れる。 互いを求めて舌を絡め合って、なまめかしい音が真夜中の部屋に響き渡る。 久方ぶりに得たふたりだけの夜なのだ。 すでに昂り固く熱をあげる雄を求めて、も身を捩る。 男の手が、藤色の着物をたくしあげ、花芯に触れればぽたりと垂れるほどの蜜があふれていた。 が恥ずかしさに顔を隠す。
水音とともに、長い指が、痛々しいまでに腫れ上がった芯と口を弄ぶ。 まもなくは立っていられなくなって、がくがくと身を震わせながら、気をやった。 今まさに自分に翻弄されるまま快楽の頂に達した彼女の姿を見て、 彼はたまらない愛おしさに襲われ、自分の腕の中にきつくきつく抱きしめる。
きつく締め上げられていた着物の下から露わになるった、 ほろりとこぼれ落ちる乳房と、甘く香る肉体がまぶしい。 またがりながら、男も着物を脱ぎ去って、 今一度肌と肌の隙間を埋めるように、抱きしめ合う。 すがるように。愛し合っているのだ。理解る。 どくりどくりと脈打つ自身を、蜜のあふれる熱い泉に沈めれば、 脳天が溶けるような快楽の洪水に襲われる。 抱き合って、乱れて、溺れて、ひとつになって、溶け合って───。 何度も何度も相手の名前を叫びながら、駆け上る恍惚にふたりは果てた。
想いの通った情事のあとは、どちらもできるだけ近くにいたいと思うものなのだろう。 鬼灯も、の小さな角に口付けたり、彼女の頭を無意識に撫でながら頬を寄せたりしている。 が聞いた。
外で見てきたさまざまな話を、面白おかしく話して聞かせてくれた鬼灯。 幼いがどれほど救われたことか───。
久しぶりに上野なんかいいですね。 あのフェネックの親子、貴女見たがっていましたもんね」
この心地よさは何物にも変え難い。 貴女こそが、愛しい存在。
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きっと弱っちい子供時代を挽回して楽しんだろ!くらいの図太さで、
馬鹿にしたやつらにじんわり制裁を加えるべく黒幕生活を楽しんでいるのだと思います。
鬼灯さまの前ではかわいくなっちゃう甘えん坊さんのお話でした。
なかよしがいいよねー!
20220124 呱々音