「なぜ君は僕の嫌がることをするの」
彼女の口からどんな答えが返ってくるものか、Qにはいくら考えても解らなかったから。 マグカップの中に入っているのは、彼が頼んだこともない飲み物。 ミント入りのホットチョコレート。
彼はますます腑に落ちないと言わんばかりに顔をしかめた。
「たまには違うものを飲んでもいいと思うけど」 「これ、歯磨き粉とチョコレートの匂いじゃないか」 「あら。飲んでみなければわからないじゃない」
は涼しい顔でミントフレーバーのホットチョコレートを飲み下す。 彼はそうやってしばらく、恨みがましげに彼女を睨みつけていたが、 愛用のマグカップになみなみと注がれたチョコレートを見つめながら、 ふうと息を吹きかけてから、マグの中身をぺろりと舌先で味わってみた。
「どう?」 「美味しい…」 「ほら」 「……かもしれない」 「Qの意地っぱり」
――飲んでみればなるほど、そんなに悪くない。 とくに開発の具体的な作業に掛かりきりで、一息つきたい今なんかには丁度よい。 Q課の最年少リーダーと、最年少職員が仲良く並んでホットチョコレートを啜っている。 その前を皆、奇妙なものでも見るように通り過ぎていく。
「だめ。あげない」
「その答えは世界で一番簡単よ」 「じゃあ教えて」 「それはいけないわ。自分で考えなくちゃ」
Qは一番簡単な答えに飛びついた。そしてその答えをそっと呪った。
イエスともノーとも返さなかった。 沈黙は肯定に似ているから、Qはもはやその答えこそが真実なのだと半ば信じかけていた。 彼女はおもむろに首を傾げる。
Qは手に包んでいた愛用のマグカップをそっと机に置くと、 少しずれ落ちたメガネを上げて、カーディガンの裾を直し、ひとつ咳払いをしてから、 つい先刻自分たちの前を通り過ぎていった007を探しに部屋を出た。
チョコレートの風味を支配するミント。
ある意味、最高の調和。
個人的にミントのホットチョコレート好きです。美味しい。
20130224 呱々音
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